<並びの店舗の人>

最初に構えたお店はコンビニの駐車場に単独で立地している環境でしたので周囲に気を使う必要がありませんでした。商売、特に飲食店という業種は隣近所との関係に神経を使いますので周辺になにもないことはとてもうれしいことでした。

しかし引っ越した先は、今風に言いますとメゾネットタイプで昭和的な言い方をしますと長屋形式ということになりますが、とにかくそのような構造になっていました。全部で6軒のお店が連なっており、居酒屋、お直しショップ、喫茶店、ラーメン店、お蕎麦屋さんが並んでいました。僕のお店とお直しショップは1階と2階が別々の借り手でしたが、ほかの物件は1、2階を同じ人が借りていました。つまり、1階は店舗で2階に居住していることになります。僕のお店の2階には小さなお子さんが2人いるご夫婦が住んでいました。

ラーメン店時代に近隣に対する対応の大変さを体験していましたので、2階の方には丁寧な挨拶もしていましたが、それでもトラブルになりました。原因は臭いです。これは飲食業には避けて通れない問題ですが、オープンしてから数週間しますと「臭いをなんとかしてほしい」とクレームを言ってきました。

これまでの商売経験からこのクレームは想定内でしたので管理会社と相談してスムーズに解決することができました。

僕の店舗は僕が借りるまで数年間空き店舗になっていたようです。そのような過去から、おそらくほかの物件の方たちは僕たちのお店をちょっと斜めの視点から見ていたように思います。以前にも書きましたが、ここの立地環境はお店としては最悪の場所だったからです。おそらくすぐに閉店すると思っていたのではないでしょうか。

先ほど並んでいるお店を紹介した中の一つに喫茶店と書きましたが、実は僕が開業する時点ではどこかの会社の事務所でした。1年後くらいに喫茶店になったのですが、ただの喫茶店ではなく犬も一緒に入れる喫茶店でした。たぶんドッグ喫茶店のはしりだと思いますが、犬好きの人を対象にした喫茶店でしたので当時は珍しいと人気があったように思います。先日、お店の前を車で走ったところ、現在はなくなっていました。

結局、その場所では4年営業していたのですが、閉店の挨拶を並びのお店に挨拶に行ったときに予想外の対応に出会いました。それはお蕎麦屋さんです。

お蕎麦屋さんは60才くらいのご主人と奥様、そして娘さんらしき方と3人で営業していました。開業するときも挨拶に行きましたが、そのときはぶっきらぼうという感じであまり好印象ではありませんでした。開業してからもこれといったつき合いもなく店の前を通ったときに軽く会釈をするくらいでした。お蕎麦屋さんというのは閉店時間が早いですので顔を合わせることが少ないこともありましたが、4年の間に言葉を交わしたことは一度もなく、笑顔を見たことも一度もありませんでした。

ところが、閉店の挨拶に行ったときは別人のような対応をしてくれました。僕がお蕎麦屋さんのドアを開け、「挨拶に来ました」と告げますと、小走りで駆け寄ってきて笑顔で言葉を返してくれたのです。僕はそれまで見たこともない愛想の良さに驚いたのですが、そのうえ世間話までしてくれたのです。

ほかの店舗の方々は僕が挨拶に行きますと「ああ、どうもわざわざありがとうございます」と言って終わりだっただけに、お蕎麦屋さんの対応には驚きました。お蕎麦屋さんは閉店する僕を気遣ったのか「ウチも大変で、いつやめるかわからないんですよ」などと言葉かけてくれたのですが、間違いなく僕を慮った言葉です。自分が落ち込んでいるときの接し方で「その人の本質がわかる」と言いますが、このお蕎麦屋さんは不愛想ですが、本当はいい人だったようです。

人は見かけに寄りませんし、表面だけのつき合いでは本当の姿はわからないものです。

また来週。

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