<たくましい父>

3~4才の男の子を連れた30代半ばのお父さんがコロッケを買いにきました。注文を終え僕が袋に詰めているときに男の子が車道側に出そうになったのでお父さんが「車が来るから危ないよ」と言いました。男の子はすぐにお父さんの側に戻ってきたのですが、お父さんは腰をかがめて言いました。
「車にぶつかったら大けがをするから危ないよ」
すると、子どもはたどたどしい口ぶりで
「お父さんよりも強いの?」
と聞きました。思わずお父さんは笑ってしまい
「そうだよ。お父さんより強いんだ」と答えました。
「ふ~ん」
なんとも微笑ましい親子の会話でした。小さな子供にとって親は完璧に思える存在であることを示しています。

最初に店を構えた場所は幹線道路が交差したコンビニ一角にあったのですが、ある日大きな体格をした小学校高学年くらいの少年がやってきました。しかし、コロッケを買いにきたわけではなくただ大声で叫んでいただけでした。なにを言っているかわからず、意味不明の言葉を叫んでいるだけでした。しばらく店の周りをウロウロしていたのですが、いつの間にかいなくなっていました。

正直に言いますと、商売をやっていますと店の近くに不審な人物がいるのは困りものです。お客様がお店に来づらくなりますのでいなくなって安堵していたのですが、いなくなってから少ししてお店から数メートル離れた駐車位置に車が停まり、50才半ばくらいの眼鏡をかけたおとなしそうな男性が降りてきました。そして、周りを見渡してから店先にやってきました
「あのぉ、大声を出す子供が来ませんでしたか?」
「あ、さっきこの近くにいたんですけど、いつの間にかいなくなりました」
僕が答えていると、交差点の真ん中あたりで大声で叫んでいる先ほどの少年が見えました。大声を出しながら交差点内を走り回っているのです。もちろん車が往来していますのでとても危険です。車はみんな停まり、交差点の周りにいた人もみんな少年の動向を見守っていました。
すると、50才くらいの男性は店先に立ったまま僕に話しかけてきました。
「私の子供なんですけど、障害があって…。一緒に車に乗っていたんですけど急に飛び出して行ってしまったんですよ。よくあるんですけど」
そう言うと、少年のほうに小走りで向かっていきました。

交差点を取り巻く全員が注視する中を男性は少年の側に駆け寄り、腕をつかみ身体を抱きかかえるようにして連れ戻してきました。その一連の動きが手慣れた感じがしていて「よくあるんですけど」がウソでないことがわかりました。

結局、そのまま車の中に押し込んで男性は行ってしまったのですが、僕はその男性のたくましさに驚いていました。いくら慣れているとはいえ衆人環視の中で息子を取り押さえるのは勇気のいる行動です。少年は子供ですが、体格が大きいのでまさに「取り押さえる」格好になりますが、そうした行動を当然のようにする男性にたくましさを感じました。

親は子供に対して愛情を感じますし責任を持つ義務がありますが、それを実際に行うのは簡単ではありません。障害のあるお子さんの場合はなおさらのことと思います。僕はその男性から覚悟とたくましさを感じました。尊敬に値する方でした。

また来週。

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