<相性の合う人>




ラーメン店はイートインでコロッケ店はテイクアウトです。テキストでイートイン形式においては「店主と親しい関係であることを友人知人に自慢しようとするお客さん」の下心について書きましたが、これはイートイン形式の特徴でもあります。つまり店の中という狭い空間に滞在しているからこそできることです。ですので、テイクアウトでは「親し気に話しかけてくるお客さんはいない」と予想していました。ですが、あにはからんや意外にいることに驚かされました。

しかし、イートインとは違い下心がないのが特徴で単に店主と「話したい」「仲良くなりたい」という素朴な気持ちであることがほとんどでした。「ほとんど」というよりも「すべて」と言っても過言ではありませんでした。

「下心がない」とは言いましても全く「なにもない」というわけではなく、そこには「誰かとお話がしたい」という気持ちがあります。人間は元々社会的動物ですので誰かとつながっていたいという本能を持っています。お客さんという強い立場ゆえに、話しかけても拒否されることはありませんので安心して欲望を満たすことができるわけです。その欲望が「話しかける」という行動をとらせているようです。そうでなければ、わざわざ話しかけるという行動をとるはずはありません。

僕としましてもそのような悪意のない欲望の場合は拒否する理由もありません。そもそも僕自身がそうした欲望をほかの人よりも持っている性格ですので話しかけられたときは喜んで応えていました。話しかけてくる人のタイプとしては、「店主と親しくなりたい(誰かに自慢するという意図ではなく純粋に仲良くなりたい)」「自分の考えを誰かに話したい」「自分の博識を披露したい」の3つに分けられます。

前者の2つのタイプのお客様は問題ありませんが、最後の「博識を披露したい」はちょっと困りものです。なぜなら自慢話に終始することがあるからです。店頭でずっと話しかけられてしまいますと、ほかのお客様への影響もあります。やんわりと拒絶反応を示すのがコツです。

ある雨の日、お客様も少ない時間に30才くらいの男性がコロッケを買いにきました。そして、買ったあとに店先で食べはじめたのですが、このようなお客様は多くいらっしゃいます。ほかにお客さんが来ないこともあり、その男性はコロッケを食べながら話しかけてきました。話の内容はいわゆる世間話といったやつです。

この男性はデジタル関連の仕事に就いている方のようでIT業界とか放送業界について話しはじめました。そのときの口ぶりがなんとなくITに疎いおじさんに上から目線で教えるような感じだったのが気になっていました。僕のこれまでの経験しますと、ITリテラシーの低そうな人に横文字のカタカナを使う話題で話しかけてくる人はあまり信用できません。信用できないというよりも「本当の実力は低い」といったほうが正確でしょうか。おそらく本当にITの実力がある人同士の会話には入っていけない人なのではないでしょうか。そんなことを思わせる人でした。

相性というのはあります。僕が「この人、相性が合いそう」と感じる人はやはり相手も感じるようで自然と話すようになります。「相性が合う関係」の人とは損得の関係なしに親しく話すものです。そんな一人に僕と同年代の男性がいました。この男性はお店に来始めた当初はぶっきらぼうで感じのよい人ではありませんでした。しかし、幾度か来店するにしたがってお互いに「相性が合う人」と思いました。

「相性が合う人」は損得関係がないとは言いながら、実際は僕が売る方で相手は買うほうですから損得はあることになります。ですが、そのようなことを感じさせずに話すことができる人です。もちろん、店主とお客様の関係ですから僕は微塵も馴れ馴れしい接し方はしませんでした。相手の方は僕のそうした接客も含めて「相性が合う」と感じていたように思います。

この方で印象に残っているのは、前回自民党の下野が決まったときに真っ先にわざわざ自転車を走らせて僕に教えにきたことです。余程興奮していたのかいつもよりもハイテンションでした。それほど民主党政権の誕生はインパクトがある出来事でしたが、そうした感情を共有できる人と出会えるのも商売の面白さでした。

また来週。







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