<エンドウさん(仮名)>




僕はある大手ディスカウントショップで交通誘導の深夜勤務をしていたことがあります。いわゆる駐車場係ですが、そうした職場には変わり種の人が集まってくるものです。中には住むところがなく寮を目当てに来る人もいますが、そういう人は若い人がほとんどです。

今週紹介するエンドウさんは45才くらいのオジサンです。身長は僕より低く、体格的にも小さめで頭はかなり薄くなっており、立派なおじさん体型でした。エンドウさんは小学生の息子さんがいるようで、たまに携帯に電話がかかってきていました。

僕が入ったとき、一応従業員のリーダー的な役割を担っているようで従業員が立つ場所を決めていました。なぜかエンドウさんは僕には優しく楽な場所をあてがってくれたり、休憩時間を長めにくれたりしていました。

たまたま休憩室で座っていますと、エンドウさんが警備の人と話しているのが聞こえてきました。休憩室は店内に設置されているビデオを一堂に観ることができる場所でもあります。広さで言いますと、20畳くらいあり真ん中に10人くらいが座れるテーブルがあり、部屋の端のほうにビデオが10台くらい並んでいました。

ですから、その部屋には誘導係もいますし、警備の人もいることになります。警備の人は毎日1人が来て見まわったり、ビデオを見たりしているのですが、店舗の責任者の人は週に5日来ていました。その人が休みの日は臨時の人が来るようなシステムになっているようでした。

僕が行っていたときの責任者を任されていた警備の人は新卒で入社した若い男性でした。警備に人は交通誘導係と違い普通のスーツを着ていたのですが、その若い新卒の人は右手に障害を持っている方でした。右手は生まれながらに短かったそうです。

そうした障害がありながらも、きちんと仕事に就き働いているのですから立派です。昼食のときに話をすることもありましたが、真面目で素直な性格の持ち主でした。その青年にエンドウさんはお願いをしていました。

「お金を貸してくれないか」

困っている青年の雰囲気が伝わってきました。返事をしていないからです。「ええ、、」とか「まぁ、、」などと「YES」とも「NO」ともとれる言いようの返事でした。年齢が20才くらい離れているのですから、容易に断れないのでしょう。真面目で素直が性格であるがゆえに答えに窮しているようでした。

そうした場面を幾度か見たことがありましたので、ある日青年と二人っきりになったときに聞いてみました。

「エンドウさんにお金を貸してほしいってお願いされてるでしょ」

「ええ、まぁ…」

真面目で素直が性格が伝わってくるような答え方でした。

詳しく話を聞いてみますと、エンドウさんはアパート代を3ヵ月分滞納しているようで、悩んでいるそうでした。20才も年下の青年にお金を無心するのは良いことではありませんが、僕がそれ以上不快に感じたのは、エンドウさんが青年にお金を無心するときにお昼ご飯を驕ったりしていることでした。

つまりお昼ご飯をおごっていながら、お金の融通をお願いしているのです。これは悪徳業者がよくやるの手口です。エンドウさんは決して悪い人ではないはずですが、やり方があくどいところがとても不快でした。

僕は青年に「断ったほうがいい」ということと「お金を借りるなら、誘導の会社の上司にお願いするのが筋」とお話したのですが、しばらくして僕はその職場を辞めてしまいましたので結末はわかりません。

世の中がコロナで雇止めが行われていると報道されていますが、そうした報道を見るたびにエンドウさんを思い出しています。会社の寮に住むことになったことだけは聞いていましたが、今どうしているのでしょう。

また、次回。







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