<野菜の移動販売の人>

コロッケ店時代にお豆腐の移動販売をしているお兄さんと親しくなり、移動販売に興味を持ちました。そこで移動販売を始めるわけですが、実はこの流れは普通の人とは真逆の過程です。普通の人は「いつか店舗を構えて商売をする」ことを目標に移動販売をするものです。商売に上下関係はありませんが、常識的には店舗を構えるのが「上」で移動販売が「下」です。ですが、普通の考えの持ち主でない僕からしますと、わざわざ家賃という安くもない固定費を払って商売をするのは「得策ではない」と考えていました。店を構えたからと言って、それが偉いわけでもないことは経験済みだからです。

そこでネットで移動販売をさせてくれる業者を探しました。例えば、問屋さんが卸す先を開拓する目的で販売してくれる相手を探していないか、と考えたのです。すると、無農薬の野菜を専門に扱っている会社を見つけました。リヤカーで固定客を回る販売法でした。

この会社も立ち上がったばかりのようで幹部が4人で現場で販売している従業員が2人の小さな会社でした。僕は移動販売をしたいだけでしたので全く問題なく応募をしました。

面接に行きますと、50才くらいの眉が太い西郷さんのような雰囲気をしてがっしりした体格の人が面接をしました。話をしている途中で40才くらいの痩せ気味の男性が部屋に入ってきたのですが、西郷さんはその方を呼び止め、僕に紹介しました。すると男性は
「あ、社長をしている〇〇です」と
答えたのです。なんと、その方が社長さんでした。その後わかるのですが、社長とは名ばかりで実際に会社を動かしていたのはこの西郷さんでした。

結局、従業員が少ないのですから不採用になるはずもなく、とにかく採用となり翌日から働きだすことになりました。翌日行きますと、僕と同年代と思える男性がいました。挨拶をしますと、僕と同じ初日でした。

仕事内容は、決められたルートをリヤカーを引いて野菜を販売するのですが、そのルートにはすでに顧客となっているお客様が決まっていました。つまり開拓されていたのです。ルートにより顧客の数は変動がありますが、平均するとだいたい30軒くらいでしょうか。初日だけ最初の2時間ほどを幹部の人が一緒に回って、ルートや顧客を教えてくれました。あとは地図を見ながら回るのです。

リヤカーを引いて回っていますと、声をかけて購入してくれる人がいます。これはお豆腐屋さんと同じです。固定客のほかに飛び込みでも売上げを作れるのですから販売方法としては申し分ありません。朝8時からスタートして午後4時頃に営業所に戻って1日の売上げは1万5千円くらいだったでしょうか。最初はルートを覚えるだけで大変でしたので売上げの数字まで考える余裕はありませんでした。しかし、想像した以上に売上げがあったことに驚いていました。

ここの会社の報酬は歩合給だったのですが、僕としてはそのほうが働きやすいと思っていました。実は、この会社のほかに自分で商品を仕入れて販売することも考えていましたのでここの会社にがんじがらめに縛られるのは避けたい思いがあったからです。

初日に知り合った僕と同年代の男性は販売の経験がなく、「新しいことに挑戦しようと思って」という気持ちで応募したそうです。帰る方向が同じで僕と同じ自転車通勤でしたので一緒に帰ることもあり、帰りにコーヒーを飲んだりもしました。50代半ばで新し人と知り合いになるのも珍しいと思い、不思議な気分になりました。

普通の仕事歴を経ている人で、50代半ばでリヤカー販売業に参入してくるのは珍しいケースです。ですから、ちょっと変わり者なのかなと思っていましたが、お話をしてみますと普通のまともな大人の人でした。この年になりますと、相手の過去のことを詳細に聞くのも気を使うものです。ですので突っ込んだ質問はしませんでしたが、普通のサラリーマン生活を送っていたようです。結局、この会社は半年後に倒産するのですが、最後まで仲良くしてくれた感じのよい男性でした。

また、来週。

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