<30年経っても>

タクシードライバーの仕事にも少しずる慣れてきて3ヵ月を過ぎた頃、単純な生活パターンに飽きてきていました。元来スポーツ好きの僕ですので、身体を動かしていないことにちょっと退屈感を覚えていました。

退屈感を覚えるということは、実はタクシードライバーとしての成績がよかったことも関係しています。僕がタクシードライバーに転職した一番大きな理由は「頑張れば収入が多くなる」ということです。覚えていらっしゃるでしょうか。チリ紙交換時代に公園で休憩していたときにで出会ったタクシードライバーの方の「タクシーのほうが儲かると思うよ」の一言です。

それなのにタクシードライバーになっても一向に収入はあがりませんでした。僕の最初の月の成績は会社でビリでした。なにしろ地理を知りませんのでどこを走ってよいかもわかりませんし、どうすればお客様を乗せることができるのかもわかりません。

同期のYさんは地理にある程度自信を持っているようでしたので最初の月からそこそこの成績は上げていました。やはり地理に自信がありませんと自ずとお客様を乗せることもできなくなります。成績が悪いということは即ち収入が少ないことです。タクシードライバーは歩合制ですので当然ですが、それではタクシードライバーに転職した意味がありません。

僕は地理に詳しくない自分がどうすれば成績を上げることができるようになるかを考えました。そうしたときにたまたま見かけたのが、渋谷駅で客待ちをしているタクシー乗り場とは反対側の道路で客待ちをしているタクシーでした。しばらく見ていますと、そこは細い路地があるところでした。そしてその場所に路地から人が出てきてタクシーに乗ったのです。

そこそこの繁華街ですとどこの駅にもタクシー乗り場で客待ちをするタクシーが並んでいる光景があります。客待ちのタクシーの列とは全く関係ない路地の脇で客待ちをしているタクシーがとても印象に残りました。そして、そこを通るたびに注意をして見ていますと、そこには必ずタクシーが客待ちをしていることに気がつきました。これが僕が成績を上げるヒントになりました。

タクシー乗り場に並んでいては時間ばかりがかかってしまいお客様を乗せることはできません。それに比べますと、路地から大きな通りに出てくる場所というのは順番を待つ必要もありませんし、それよりなによりタクシーに乗りたいお客様が出てくる確率が高いのです。僕は勝手にそのような場所を「盲点」と名付けていましたが、僕はいろいろなところで盲点を見つけるようにしました。そして、成績はうなぎ上りで上がっていきました。

最初の頃はどうしても夜になると眠くなってしまっていました。もちろん途中で仮眠などとる気持ちの余裕はありせんでしたし、必死でしたのでただただ24時間が過ぎているように思えていました。ですから肉体と精神は頑張っているのですが、それが成績に結び付くことがなかったのです。しかし、盲点に開眼してからは「努力が成績につながるように」なりました。不思議なものでよい方法が一つ見つかるとそのほかにも方法が見つかるようになりました。

僕がこの方法で成績を上げたのは今から30年以上前のことですが、昨年「ガイアの夜明け」という番組を見ていて驚きました。その日の番組では新しく立ち上げたタクシー会社を取り上げていたのですが、その会社で新人に売上げを作る方法を教える場面がありました。その方法が僕の「盲点作戦」と同じ発想だったのです。30年経った今でもやり方が変わっていないことに驚きました。

30年以上前に僕が考えていたやり方が今の時代にも通用するということはタクシー業界が進歩していないことの裏返しです。タクシー業界は「乗務員の給料が減っている」とか「規制緩和で業界が衰退する」などといろいろな問題が伝えられていますが、その背景には業界が行政に依存することで生き延びてきたという問題があるように思えます。

それはともかく仕事に余裕が出てきたタイミングで僕は野球部の存在を知りました。

また来週。

スポンサーリンク
エッセイ(大)
エッセイ(大)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク
エッセイ(大)