<パンチパーマの人2>

さて、パンチパーマの方の続きです。
先週お話しましたように、ヤクザの方々は法に触れて仕事をしている人を守るのを生業としていますが、ときには「守る」を逸脱することがあります。「逸脱」は「やりすぎ」と言い換えることもできますが、要は「弱みにつけこんで」お金をせびるわけです。

守られている側としましては、つまりは「脅される」ことですが、この要望を断ることはできません。なにしろ法に触れて営業をしているのですから。

パンチパーマの方はタクシーの後部座席に座ってそのような話を始めました。実は、この方とお話をするのはそのときが初めてではありません。それ以前に会社の集会の席で隣に座ったときに世間話をしたことがありました。おそらくそのときの雰囲気で僕になら愚痴のようなことを話してもいいと思っていたのでしょう。

人間とは胸の中に、もしくは心の中にあるものを吐き出さなければ生きていけない動物です。パンチパーマの方もおそらくストレスが溜まっていたのでしょう。会社の中で若いほうに入る僕は愚痴を話すには絶好の相手と映ったようでした。

「もうすぐ妻の実家に帰るんですよ」
パンチパーマの方のような一見強面の人の特徴として「知らない人に対して言葉遣いが丁寧」ということがあります。僕のほうが大分年下でしたが、丁寧な言葉遣いをしてくれていました。
「実は…」と、新宿で違法カジノを経営している話から始まり、まだ世間知らずの若い僕にとって好奇心がワクワクするようなお話が続きました。やはり法律に違反して仕事をすることは大変なことが多いようで、その話しの中で「ヤクザの人たちからしょっちゅう電話がかかってきて、ベンツが欲しいんだ」などと言われることがあったそうです。最初のうちは「仕方ない」と思っていたのですが、次第にストレスに耐え切れなくなり「妻の実家に帰る」ということでした。

興味深い話を聞きながら走ること約30分。その方を降ろしたのはおしゃれな高級そうなマンションの前でした。タクシードライバーが住むにはちょっと不似合いな高級マンションです。もちろん「お釣りはいいですよ」と笑顔で降りて行きました。
それからしばらくしてその方を見かけることはなくなりましたが、あと一人パンチパーマの人がいました。この方は危ない系というよりはドスの利いた職人さんといった感じの人です。外見はズングリムックリしていましたが、目つきは鋭く存在自体に迫力がある感じでした。

この方は会社での在籍も長く会社の幹部の人たちも一目置いているようでした。もちろん会社の上司だろうが幹部だろうがため口です。迫力がある人の特徴ですが、相手に合わせて態度を変えることが全くなくいつも自分のペースで相手と対する人でした。

あるとき、この方が退職するという噂を耳にしました。居酒屋を開業するということで退職することになったそうですが、外見に相応しい業種のように思いました。というよりは元々が板前さんだったらしく元に戻ったに過ぎなかったのですが、言われてみますと、板前さんにいそうな感じのドスが利いた人でした。

前にタクシー業界に入ってくる人にはいろいろな職業の人がいると書きましたが、「前の仕事は自営業者」という人がかなりいました。僕が働いていた当時は普通のサラリーマンが転職してくるよりも自営業者が転職するケースが多かった印象があります。

その後自分が自営業者をずっとやっていて感じることですが、自営業者が普通の会社員になるのは難しいものがあります。まず当人自体に会社員になるという意識が根付かないことがあります。上司の指示に従うことに気持ちが抵抗する部分があるのです。

また会社側にしましても自分のペースで働いていた人を会社の色に染めるのは無理という意識があるように思います。ですから、普通の会社は自営業者を採用することは少ないようです。ですからタクシー業界は自営業者が最後にたどり着く職場ということになります。

因みに、居酒屋を開業したパンチパーマの方は1年もしないうちに戻ってきました。年配のドライバーさんが話していました。

「一度タクシーを経験するとほかの仕事できないんだよなぁ」

タクシーは朝に営業所を出ますとあとは自分の自由な世界からです。

また来週。

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