<タクシー会社の面接>




まずはタクシー業界に入るきっかけに出来事から書きたいと思います。実はこの顛末につきましては一時期サイト内に載せていましたが、時間の関係で継続できず削除した経緯があります。もうかれこれ10年以上前のことですので今の読者の方はほとんどご存知ないと思い、今回書くことにしました。

チリ紙交換を始めてから約1年を過ぎた頃の夏、公園の脇に軽トラを停めて休憩をしていました。暑い日でしたので水分の補給は大切です。当時二十代後半という若い肉体とはいえ体調管理には気を遣わなければいけません。休憩を終えて荷台の古新聞の整理をしていますと、近くを通りがかった50才過ぎくらいのおじさんが話しかけてきました。
「お兄ちゃん、儲かるの?」
おじさんの服装と近くに止まっていた車から連想してタクシーの運転手さんのようでした。
「あんまり儲からないっすね」
この「っすね」が若者らしくていいですよね。

それはともかく、僕の答えを聞いたおじさんは
「タクシーのほうが儲かると思うよ」
とおっしゃったのです。この一言が僕を新しい方向へと導くきっかけになりました。このときのおじさんの顔は今でも覚えています。話し方も偉そうでもなく見下すでもなくただ普通に「事実だけを述べる」といった感じで話していました。

ちょうど「チリ紙交換に限界を感じ始めていた」という時期も絶妙なタイミングでした。当時は今のようなインターネットもSNSなどもない時代です。「調べる」とか「探す」と言いましても手段は限られています。

当時は、タクシー運転手について調べる方法としては、毎週日曜日に新聞に折り込まれてくる求人広告しかありません。それ以来僕は日曜がくるたびに求人広告のタクシー乗務員募集を気にかけるようになりました。

そして、なんとなく安定性がありそうな印象を持った電鉄系のタクシー会社に応募することに決めました。ここから先は世の中をことをなにも知らずになめていた20代後半の若造が社会の厳しさを身に染みる展開となります。

僕はきちんとした会社に勤めた経験は中規模のスーパーマーケットしかありません。そんな僕が抱いていたタクシー会社のイメージは「一般の企業よりきちんとしていない」というものでした。「きちんとしていない」とは具体的には通勤する際はスーツを着なくてもいいし、髭や髪の毛など身だしなみもうるさいこと言わない会社という意味です。僕にタクシーを勧めてくれたおじさんも一応制服っぽいものは着ていましたが、ジャケットはヨレヨレで中に着ているワイシャツもうすら汚れていて、ネクタイも一応つけているという感じで襟元まで締めておらずだらしない着こなしをしていました。そのおじさんの印象も僕にそうした先入観を持たせたように思います。

実は、これはタクシー会社に勤務するようになってから知ったことですが、タクシー会社にもいろいろな社風があります。例えば、従業員に会社員としての姿勢を厳しく求める会社もありますし、反対に出社してくれさえすればいいという程度の規則が緩やかな会社もあります。つまり、タクシー会社も社風によってイメージが異なっているのが実態でした。僕が抱いていたイメージはタクシー業界の一部分でしかなかったことになります。

そのようなタクシー業界の実態など知る由もない僕は、どこから仕入れたかわからない「きちんとしていない」という先入観を持ったまま、求人広告で見つけた電鉄系のタクシー会社に応募しました。その応募の方法も、会社近くの公衆電話から人事課に電話をして「近くにいるんですけど面接に行っていいですか?」という、今思うとあまりに安直で適当な応募のやり方でした。

電話で了解を得て会社に向かいますと、面接室のようなところに通されました。そして、60才過ぎと思しき面接官と相対したわけですが、いろいろ質問を受けながら僕が一番記憶に残っているのは面接官が僕をさりげなく上から下まで見回したときに靴のところで止まったときの表情です。明らかにマイナスな印象を与えたようでした。そのときの僕の服装は一応スラックスは履いていましたが、上はポロシャツで靴はスニーカーを履いていたのです。
世の中をなめていました。

来週につづく。







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