<移動販売のお兄さん2>




先週のつづきです。
毎週日曜の午後7時頃に僕のお店に来るようになったお兄さんは売上げが高いほうの人だったようです。本人の弁ですので真実かどうかはわかりかねますが、1日に3万円の売上げがあると話していました。

実は3万円という数字はとてもすごいことなのですが、僕が驚くほどそのお兄さんは「すごさ」を自覚していなかったように思います。理由は、社会をまだ知らないからです。ただ漠然と「売上げがいい」と思っていただけのように思いました。

お兄さんの話に寄りますと、一応ルートは事前に決まっており営業所で範囲が指定された地図を渡され、それに従って決められた範囲内を歩きながら売るそうです。これまでのお豆腐屋さんの移動販売と言いますと、中年のおじさんが原付バイクの後ろにお豆腐の入った箱を積んでラッパを鳴らしながら走る形式が一般的でした。我が家の前には今でも午後3時頃にラッパを鳴らしながらやってきます。

しかし、最近はお豆腐屋さん自体が減少していますので原付で回っている人もあまり見かけなくなりました。リヤカー販売のお豆腐屋さんが流行った頃もすでに原付バイクの移動販売は減っていましたのでリヤカー販売はその隙間を狙ったことになります。繰り返しますが、この会社は一時期は売上げが好調だったはずです。

当時の報道を読みますと、倒産した理由は無理な拡大により資金難に陥ったと書いてありました。また、バイトの人に自腹で購入させるやり方に反発してどんどん人が辞めていったことも理由のようでした。若い人のこのような対応は褒められるべきものです。

僕のお店に来ていたお兄さんはそこそこの売上げがありましたので自腹で購入する分がほとんどなく損害を受けることは少なかったようです。お兄さんの話では、報酬形態は時給制と歩合制の2種類があるそうでしたが、お兄さんは時給制を選択していました。お兄さんほど売上げがよい場合は時給制よりも歩合制のほうが得をするように思いましたが、働いた時間分だけもらうほうが安心だと話していました。

ある日、お兄さんが同僚らしきお兄さんを連れてきました。その兄さんは背も高くなかなかのイケメンで俳優にでもなれそうな感じの人でした。すると、やはり本職は演劇関係の仕事ということでした。イケメンのお兄さんはまだ新人のようで「売上げが少ない」とぼやいていました。

僕はお兄さんの話を聞いたことで、コロッケ店を廃業したあとに移動販売業を始めるのですが、それほど魅力的な仕事に見えました。僕が始めた移動販売は扱った品物が野菜や果物でしたが、あとから考えますと、扱い品目が成否の分かれ目になったように思います。最初から移動販売が基本となっているお豆腐販売ですと同業者への配慮を気にする必要もさほどありませんでしたが、野菜や果物の場合は店を構えている同業者から反発を受けていました。これが大きな問題点でした。

お兄さんが売上げを作れたのはまじめに働いていたからです。そんな印象を与える好青年でした。もちろん外見は重要です。購入するのは年配の方や女性がほとんどですので見た目の印象で決めることが多いからです。それから、ルートと時間を守ることです。我が家の前を通るお豆腐屋さんも来る時間は毎日決まっていますが、おおよそでも訪問する時間を一定にしていることでお客様に安心感を与えることができます。これが重要です。

僕の移動販売の顛末は「移動販売をする前に」を読んでいただくとして、移動販売は正規のビジネスにはなりづらい部分があります。やはりお店を構えていませんと、信用力が落ちるからです。脱サラや独立を扱う雑誌や書籍には「独立=お店を構えること」という1つのパターンがありますが、僕の場合はその逆を行ってみました。お店を構えたならそれだけ経費がかかることになります。必死に努力してお店を構えることで1つ成し遂げた感がありますが、実はそこからがスタートなのです。そこを勘違いしている人がいるのがもったいない気持ちにさせます。

また来週。







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