<僕の恩師2>




先週、バレー部顧問のササキ先生について書きましたが、ササキ先生を書いたのなら僕たちが最も接したクワモリ先生についても書かなければ失礼に当たるような気がしました。クワモリ先生についてはこの「出会った人」コラムではなく、「私のココロ」コラムで書いたことがありますが、もう10年以上前だと思いますので、覚えている人もほとんどいないでしょう。

クワモリ先生は当時27才でした。なぜか年齢をはっきりと覚えています。日体大を卒業したロボットのような体格をしていましたが、ロボットは体格だけではなく顔もロボットのような顔つきをしていました。四角くて角ばった感じの顔でした。

日体大卒らしくスポーツ刈りでいかつい雰囲気を醸し出している先生でしたが、普段教師として出勤してくるときは、上はポロシャツで下はジャージのような生地のスラックスという服装でした。やはり体育を教える教師とはいえ、通勤時はきっちりとした印象を与える服装と決めていたようです。

その証拠に、日曜とか夏休みのようなお休みの日は、もっとカジュアルな服装で来ていました。さらにサングラスをおでこの上に乗せて、ちょっとしたおしゃれ感も出していました。夏などはこの格好にサンダル履きでしたから、公務員には見えなかったかもしれません。アッチ系の人と思われても仕方のない外見でした。

そのうえに、ロボットのような体格で、さらにロボットのような顔つきまでしていましたのですから、充分強面の感じをほかの人に与えます。

ある日、わが校にほかの学校のツッパリが一人でやってきたことがありました。そのツッパリは、わが校のツッパリらしき生徒を校門を出たところで呼び止め、少し離れた場所まで連れて行き、「話をつけていた」そうです。ツッパリではない僕としては「話をつける」意味がわかりませんが、校門を出ていつも寄る駄菓子屋さんの裏手に十数人が集まっていましたので、見に行きました。

そこには、そのツッパリとわが校のツッパリの範疇に入るメンバーが小競り合いをしていました。殴り合いこそしていませんでしたが、ガンの飛ばし合いをしていて、緊張感が漂っていました。

そのときの僕の個人的な感想としては、一人で乗り込んできたそのツッパリに尊敬の念を抱いたのも事実です。実は、僕はそのツッパリを見たことがありました。僕のバレー部にはサトウ君というツッパリがいたのですが、ツッパリと一目でわかるようにリーゼントにしていました。

サトウ君もそうなのですが、ツッパリの人は「喧嘩をふっかけられることを願っている」ところがあります。ある日、部活が終わったあと地下鉄に向かって歩いていますと、学ランを着たリーゼント頭の高校生が目の前に現れました。そして、サトウ君の腕をつかみ、地下鉄の裏手に引っ張っていったのです。そのときはサトウ君を脅すだけで手を出すことはありませんでしたが、もちろんサトウ君もひるむこともありませんでした。

お互いに言葉で相手をののしるだけで終わったのですが、10分ほどでしたが隣に立っていた僕は緊張していました。ツッパリが去ったあと、サトウ君はなにごともなかったかのようにふるまっていましたが、僕はつくづく「自分がまじめな外見をしていてよかった」と実感しました。

そのときのツッパリ君が地下鉄ではなく、わざわざ校門の前まで来たのでした。僕が近くに見に行ってしばらくすると、クワモリ先生がやって来ました。そして、集団の中に入ると、やってきたツッパリと周りの見渡し「おばさんが心配してるから、問題を起こすな」と言って立ち去って行きました。

そのあとにそのツッパリから出た言葉がとても印象に残っています。

「あの先公が、ヤクザ先生か…」

ツッパリ君の周りではクワモリ先生は「ヤクザ先生」として有名だったようです。そういえば、僕が1年生の頃、クワモリ先生の恐さを見たことがあります。

僕が在籍していた教室は学校で唯一グラウンドの隣に建っている校舎でした。僕のクラスは2階でしたので、窓から広いグラウンド全体を見渡すことができます。

ある日、部活が終わったあと忘れものがあったので教室に戻りました。すると、グラウンドのほうからバイクのエンジンらしき音が聞こえてきました。僕は、窓に近づきグラウンドを見ますと、二人乗りのバイクが広いグラウンドを走り回っていました。

すると、しばらくして体育館のほうからクワモリ先生がなにかしら叫びながらすさまじい勢いでバイクのほうに走っていくのが見えました。先生の声に驚いたのかバイクは止まったのですが、そこにめがけて突進したクワモリ先生は二人をバイクから引きずりおろし、組み伏せてしまいました。そこにほかの先生方も駆けつけ、騒動は収まったのですが、僕には忘れられない光景です。

このように強面でいかついクワモリ先生ですが、気の弱い生徒に対する心遣いにも長けているのを僕は知っています。

バレー部の練習は厳しいので1年生の冬には同学年は5人しか残っていませんでした。その中でも一番背が低く、一番バレーの経験がないのが僕でした。そんな僕をクワモリ先生は1年生の終わりの大会で試合途中に出場させてくれました。

緊張していた僕が覚えているのは、目の前に来たボールをアンダーで上げただけなのですが、クワモリ先生はそのワンプレーをわざわざみんなの前で褒めてくれたのです。僕はただ恥ずかしくてうつむいていただけでしたが、試合に慣れさせて勇気づけるのが目的であることをなんとなく感じていました。

クワモリ先生は外見上は強面でしたが、絶対に暴力を振るわない先生でした。バイク引き倒しは例外中の例外です。僕の性格上、部活で暴力を振るわれていたならやめていたはずです。たぶん続けていられなかったのでしょう。その意味で言いますと、クワモリ先生に出会えて、高校生活は本当に満足しています。

その意味で本当に運がよかった、と思っています。

また次回。







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