<典型的な人>




会社に入って3年目のことです。社内でも規模で言いますとベスト3に入る大型店舗に異動になりました。僕は、最初の店舗が小型店で、それから順に中型店、大型店と一年ごとに大きな店舗に異動していたことになります。

それぞれ1年ずつ過ごして僕は退職したわけですが、一番僕に相性が合っていたのは小型店だったように思います。店の規模が大きくなるにつれて、部門間の垣根が高くなるように感じられたからです。

小型店では衣料部門も雑貨部門も食品部門も人間関係がスムーズでしたが、中型店以上では、各部門同士で固まっていることが多く、他部門との交流はあまりありませんでした。僕は、小型店時代は食品部門の人とも気軽にお話をし、親しく遊びに行ったりもしていましたが、中型店に異動してからは他部門の人と交流することはほとんどなくなっていました。

小型店が性に合っていたのは、変な気遣いをする必要もなく、他部門の人と接することができたからです。この雰囲気は庶民的と言ってもいいと思いますが、この庶民的雰囲気は店舗の規模が大きくなるにつれて失われていました。

大型店舗になりますと、働いている人数も多くなりますので、下手をすると同じ部門内でも意思の疎通が損なわれることもがあります。衣料部門にも肌着売場や男性衣服売場、女性衣服売場などありますが、その垣根が太く高くなるケースがあります。

例えば、部門の主任同士が今一つ馬が合わない場合などは頑丈な垣根が構築されることになります。今週紹介するのは、他部門の主任さんです。

その主任さんは紳士服を担当していました。僕は肌着売場だったのですが、肌着の主任とはお互いに受け入れがたいものを感じていたようです。そんな立場の僕ですが、紳士服の主任はなぜか僕にだけは話しかけてくれていました。

売場が違うとはいえ、社員としては先輩ですし、役職も上ですので失礼に当たらない程度に接していました。

この主任のわかりやすいところは、上司にこびへつらうところが丸見えなところです。上司とは係長のことですが、係長に気に入られるようにあからさまに振舞う姿を見ることが度々ありました。

上司にそのように接していながらも、上司に対する不平や不満が全くないわけでもありません。上司にこびへつらっていますと、やはりストレスが溜まりますのでそのストレスを発散することは必要です。

その発散する相手が僕のようでした。愚痴を言いたくなってくると、他部門の僕のところにやってくるのです。もちろん事務所内ではほかの社員もいますので不平不満愚痴を言うわけにもいきません。主任がストレスを発散させに来るのは僕が売り場にいるときです。

僕も次第にその主任の性質がわかってきましたので、事務所の様子を見ていて「ああ、そろそろ来るな」と予想するようになっていきました。僕の予想は、だいたい90%の確率で当たるのですが、事務所内にいるときの顔の表情が違っていました。

そんな主任がある日近づいて来て、「なぁ、今度の休みに係長の引っ越しに手伝いに来ないか」と話しかけてきました。「上司の引っ越しを手伝う」ことなど僕からしますと、最もこびへつらう振る舞いですので、もちろん断りました。ですが、そのときの悲しそうな表情が忘れられません。

あとから聞いた話では、3人ほどが手伝いに行ったそうですが、手伝った人たちは直接係長から声をかけられたそうです。係長は声をかける相手を選んでいたことになりますが、僕に声をかけてこなかったのは正解です。

僕からしますと、上司が部下にプライベートな用事を要請するのは絶対にしてはいけないことです。もし、あなたの周りにそんな上司がいたなら、できるだけ近づかないほうが賢明です。

あれから40年近く経っていますが、あの主任はどのようなビジネス人生を送ったのでしょう。

また来週。







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