これまでに問屋さん関連の「あんな人」を幾人か紹介してきましたが、今回も問屋さんです。基本的に問屋さんと僕の関係は僕のほうがお客の立場ですので、問屋さんからイヤな思いをすることはほとんどありません。ですが、たまには嫌な人に出会うこともあります。
その人は営業時間中の午後3時くらいに入ってきました。年のころは60代前半くらいでしょうか。中肉中背の体格をよれよれに近いスーツで纏い、ドアを開けて挨拶をするでもなく、僕のほうをチラリと見やり、それから厨房の向かいの壁に貼ってあるメニュー表やポップに顔を向けながら「ふ~ん」といった感じで眺めていました。
僕はカウンター内の厨房の中で餃子を仕込んでいたのですが、入ってきたときに「いらっしゃいませ」と声をかけていました。
しかし、男性の動きや振る舞いを見ていますと、どう見てもお客様とは感じられません。ですので、それ以降はなにも言わず男性を見ていたのですが、一通りメニューやポップを見終わると、僕のほうに向き直り、「卵は置いてないんだ」と話しかけてきました。
その言葉だけでは、この男性の目的はわかりません。一応「ええ」とだけ答えました。
すると、
「ラーメン屋だったら、卵置いたほうがいいんじゃない?」
僕が答えあぐねていますと、
「俺、卵の問屋だけど、卵要らない?」と畳みかけてきました。
僕は一瞬戸惑いましたが、
「いえ、うちメインはチャンポンなので…」
「チャンポンでも卵あったほうがいいと思うけど…」
これで営業のつもりなのかな、と心の中で思いながら
「いえ、ウチはいらないっす」
と答えました。男性は、しばらく店内を見渡したあと
「あ、そう」と言って帰っていきました。
本気で営業するつもりだったのか、疑問ですが、年齢が年齢でしたので冗談とも思えません。もしかしたら、僕のことをバイトかなにかと思ってそのような態度をとったのかもしれません。
当時、僕はかなり若く見られていましたので、なめて見られることが少なくありませんでした。どちらにしても相手の容姿や肩書で態度を変える人にまともな人がいるとは思えません。一番の理想は、ああいう人が入って来ないことですが、店舗を構えていますと、不特定多数の人を相手にしますのでそうはいかないところが悩みどころです。
意外に、それを考えずに飲食店を開業する人は多いのです。
また、来週。