<暴力父親>




最近は子どもに対する虐待がニュースになることが多いですが、昔から暴力を振るう父親というのは存在していました。僕のラーメン店時代ですが、印象に残っている人が二人います。

一人は、年齢は30代半ばで身長175センチくらい体重70キロ、髪は短く面長の男性でした。ガテン系の仕事をしているようで作業着で一人でラーメンを食べに来ていました。そのときは別段変わった雰囲気もせず、話しかけてくるわけでもなく、漫画を読んだりしながらお会計を済ませ、帰って行く人でした。

その男性がある日、家族と一緒に来店しました。奥さんと小学校低学年と思われる男の子二人、計4人でしたのでテーブル席に座りました。

注文を受けて調理をしていますと、突然デカイ声が聞こえてきました。「大きい」ではなく「デカイ」声です。声のほうを見ますと、あの男性が年長の子どもになにかしら言ったかと思うと、右手で思いっきり頭を叩いたのです。「叩いた」という表現ですと、軽い感じがしますのでもう少し激しい雰囲気を伝えますと「ひっぱたいた」のです。

見ているほうが心配になるほどデカイ音がしました。もちろん男の子は恐怖に怯えた表情をしましたが、声を上げて泣くようなことはありませんでした。奥さんが小さな声でその男性を諫めるように注意をしていましたが、男性の表情から怒りが消えたようには見えませんでした。

それからしばらくしますと、またデカイ声がして再度男性を見ますと、また先ほどと同じ男の子の頭をひっぱたいたのです。男の子はうつむいたまま黙っていました。あれだけ強く頭を叩かれますと、かなり痛いはずです。ですが、そのときも声を上げて泣くことはありませんでした。

僕の想像では、叩かれ慣れているように思いました。そのあとは、叩くこともなく食べ終わって帰って行ったのですが、一人で食べに来ていたときでは想像できない感じのひっぱたき方でしたので驚きでした。

よく「愛のムチ」などと言いますが、「ムチ」に愛もなにもありません。「ムチ」は暴力を振るうときの道具です。そのムチを使うときは、単なる感情のはけ口でしかありません。

先ほどの男性はテーブル席でしたので厨房内からは少しだけですが、離れていました。次に紹介する父親はカウンター席に座って、思いっきり小さな男の子の頭をひっぱたたきました。

この父親は4才くらいの女の子と小学校に上がる前くらいの男の子と計3人で来店しました。この男性は初めてみる顔でカウンターに座りました。僕から向かって右端に父親、真ん中に女の子、そして左端に男の子です。

男性はガッシリした体格ではありましたが、身長はあまり高くはなくスーツを着ていました。先ほどの父親はガテン系ですので「腕に自信がありそう」な雰囲気を醸し出していました。それに比べて、この男性はガッシリした体格こそしていますが、スーツを着ていますので暴力とは無縁の雰囲気がしていました。

しかし、その男性がなんと男の子の頭を、やはり思いっきりひっぱたいたのです。なにが理由かはわかりませんが、並大抵な叩き方ではありませんでした。実は、男性はひっぱたたく少し前に僕に話しかけてきていました。

カウンター席に座りましたので厨房の中を見ることができます。厨房の中にはスープを焚いている大きな寸胴があるのですが、それを指さして
「ラーメンはスープが大切だよねぇ。ねぇ、そのスープだけ先に飲ましてくれない?」と笑顔で言うのです。

僕はそのようなことを言われたのは初めてでしたので、少し驚いたのですが、断る理由もありませんので小さなお椀に入れてテーブルの上に置きました。

男性はスープの匂いを堪能すると少しすすり、目をつむり、そして「う~ん、うまいねぇ」としみじみと言うのです。

僕からしますと、「スープはタレと合わさって初めておいしくなる」と思っているのですが、スープだけでも「おいしい」と言ってくれるのですから、そのまま「ありがとうございます」とお応えしました。

それからラーメンを出したのですが、事件が起こったのはそのあとです。食べ始めてしばらくすると父親が急に男の子の頭を思いっきりひっぱたいたのです。ひっぱたく少し前に父親と男の間で言葉のやり取りが一言二言あったのですが、その後急にひっぱたいたのです。しかも2度も!

叩き方が尋常ではありませんでしたので、しかもカウンターですので目の前です。さすがに声をかけようとしますと、父親は僕の行動を見越したように笑顔で「おいしいです」と話しかけてきたのです。

しかし、事件はこれで終わりではなく、同じことを2回繰り返したのです。さすがに3回目はありませんでしたが、男の子はやはり泣き叫ぶようなことはありませんでした。「慣れている」と取れなくもありませんが、子供ながら対処すべき方法を身につけているのかもしれません。

それにしても、暴力で子供を従えようとする親の態度は見ていて怒りしか感じません。あれから30年経っていますが、あの小さな男の子たちも立派な大人になっているはずです。あの暴力父親から逃れていることを願っています。

また、来週。







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