<コロッケ店時代の配送の人>




僕のような小さな店舗を構えている人は、取引をする問屋さんは大手では気が引けます。ですから、自ずと小さな問屋さんと取引をすることになりますが、小さな問屋さんの一般的な傾向として、福利厚生など労働環境が整っていないという問題点があります。ですから、配送業務を担当している人も大手で働いている人よりも大変な思いをしていることになります。

お店を営んでいますと、やはりいろいろと工夫をすることを迫られます。そこで問屋さんにいろいろな問い合わせをすることもあるのですが、小さな問屋さんは営業員が少ないので配送業務の人に営業のような要望をお願いすることがあります。

例えば、「〇〇のような商品を教えてほしい」と僕がお願いをしますと、その商品を探してくれます。要望を出す側は言うだけですからいいですが、探す側は大変です。配送業務だけでも忙しいはずですから、そのほかに商品を探さなければいけないのです。もし、扱っていなければメーカーに問い合わせるという作業も発生します。ですから、配送業務の人に営業のような仕事をお願いするのは気が引けます。

それでもある問屋さんで僕の担当になった若い人は嫌な顔一つせず真面目に対応してくれていました。ですが、突然ある日、「退職した」とほかの方が来たことがあります。真面目な人ほど劣悪な労働環境にいますと、いろいろな仕事を抱え込むことになります。人間には限界というものがありますから、限界が来たらその場から離れるのは悪いことではありません。

たまたま僕が休みの日にその男性を見かけたことがありましたが、同業の仕事をしていました。結婚して小さな子供さんもいるということでしたので、転職したのはよい決断だったように思います

ほかの問屋さんのお話ですが、ある日いつもと違う人が来ました。年齢は60才を優に超えていそうな人でした。

前に配送してくれていた人は若く明るい感じの人で「軽い」印象のある人でした。「軽い」とはあまり真面目に仕事に取り組んでいないことを意味しています。なぜなら「〇〇の商品を教えてほしい」と要望を出しますと、「はい!わかりました」と返事はいいのですが、その後の対応がないのです。メモをすることもありませんので僕の要望を忘れているようでした。2~3回続きますと、あきらめてほかの問屋さんにお願いするようになっていました。

その若い人の後任の方は白髪が多い眼鏡をかけた笑顔のない男性でした。わかりやすい表現をするなら不愛想といった感じです。そんな印象のまま2ヶ月を過ぎた頃、僕はお店を畳む決断をするわけですが、それをその男性に告げますと、男性は驚いたふうにして「わかりました。最後までよろしくお願いします」と返してくれました。

僕が驚いたのは、そのあとからの男性の僕に対する対応でした。お店を閉めるのがわかっているのですから、ぞんざいに対応してもおかしくありません。ところが、その男性は以前にも増して親密に優しい対応をするようになったのです。ある日などは、「箱がつぶれたのでよかったら使ってください」と商品をくれたこともあります。

人間の本当の姿は「自分が不遇のときの対応でわかる」と言いますが、すぐにお店を閉める僕によくしてもなんの得もないはずです。それにもかかわらず僕によくしてくれた男性に心から尊敬の念を持ったのは言うまでもありません。僕は第一印象がよくない人がつき合いはじめてから「いい人」と感じることがたまにあるのですが、この男性はまさにそのパターンでした。

その男性が教えてくれたのですが、配送中に事故を起こしたとき自腹を払うとのことでした。問屋さんですので自動車保険には入っているはずですが、配送している人にも負担を強いることに驚かされました。世の中の末端で働いている人たちは恵まれない労働環境になっていることに理不尽さを感じずにはいられません。

来週は参議院選挙です。理不尽な世の中を変えるような一票を投じましょう。

また来週。







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