<働く女性たち>




ラーメン屋さん時代はお客様という不特定多数の人と出会いますので、いろいろな人を見ることになります。体験記に書いていますが、とても強く記憶に残っている20代前半の彼氏彼女がいます。

最初は女性のほうが一人で来ていました。とてもスタイルがよくおしゃれな服装で、例えば黒を基調にしたステキな上下でどこかのファッション学校の生徒を思わせる方でした。数回ひとりで来たあとに男性を伴って来店したのですが、男性も女性に劣らぬおしゃれな服装でやってきました。

お店での振る舞いも物静かで話し声も適度で、全体的に素敵なカップルでした。

ある日、このカップルと一緒に中年の男性が来店したのですが、重々しい雰囲気を醸し出していました。もちろん話し声は聞こえませんでしたが、二人がつき合っていることを中年男性が反対しているふうに想像できました。

服装とも相まって、ロミオとジュリエットを想起させる思い出深いカップルでしたが、それから数ヶ月後、お休みの日に妻とドライブに出かけました。駅で3つほど離れたところに行ったのですが、たまたま信号待ちになり、なにげに横を見ますとラーメン屋さんに並んでいる行列が目に入りました。行列と言いましても有名店に並んでいるほどの規模ではなく、単に順番待ちをしている5~6人ほどの列でした。

別に意識するともなく、その待っている人をみていましたら、なんと、わがお店に男性と来るおしゃれなあの女性が並んでいるではありませんか。職場のお昼ご飯をために来たようで、同僚らしき人と話し込んでいました。

世の中は広いようで、狭いと実感した瞬間でした。

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今から25年くらい前ですが、当時は女性が一人でラーメン店に入店するのは少し勇気が要る時代でした。特に、個人が経営しているラーメン店はそのような雰囲気が強かったように思います。

ですが、私のお店の雰囲気は女性でも入りやすい感じがしていたはずですので、ほかのお店よりは女性の一人客の割合が高かったように思います。

1週間に1度くらいの頻度で20代半ばの女性が来店していました。どこかでOLとして働いているのでしょうか、出るべきところは出て締まるべきところは締まったスタイル( 昭和的な表現を使ってみました・笑 )でスーツを着こなしている格好いい女性でした。

いつもは、その女性は席に着いて注文を終えると料理がくるまで雑誌を開くのですが、その日はバッグの中からツタヤの袋を取り出し、中からCDを出しました。ZARDのアルバムです。ZARDがヒットを連発していたのは1993年から2000年くらいですが、「負けないで」や「揺れる想い」は初期のヒット作です。

女性は「初期のベスト盤」を見ていました。それが僕が興味を惹かれた理由です。

「負けないで」を口ずさんでいたように見えましたが、仕事でなにかイヤなことがあったのでしょうか。男性優位のビジネス社会で女性が仕事をするのが大変なはずです。自分を奮い立たせるために聞く気になったのかもしれません。

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開店準備は清掃から始めるのですが、その時間に決まって店の前をとおる女性がいました。この女性もいつもスーツを着ており、カツカツ歩く姿が印象的でした。太ってはいないのですが、スタイルがいいとまでは言えないほどの外見の持ち主でした。

その女性がほかの通行人と違うのは、お店の前をとおるときに必ずお店側を見ることです。なんのために見ていたかと言いますと、お店のガラスを鏡代わりに使っていたのです。店の道路側はすべてガラス張りですので店の中が暗いときはガラスを鏡として使うことができます。全体がガラスですので全身用ミラーということになります。

女性は毎朝歩きながら鏡になっているガラスで自分の服装や着こなしをチェックしていました。もちろん、立ち止まってまで確認するわけではありませんが、歩きながらそれとなくガラスに映る自分の姿をチェックしていました。

女性の服装センスは洋服をおしゃれというよりは仕事着として意識しているようでした。肩より少し上までの髪と縁が太い大きめの眼鏡が印象的でした。

ところが、ある日を境に服装センスが仕事着からおしゃれ着に変わり、眼鏡がコンタクトに変わっていました。年頃の女性ですからそのようなことがあっても不思議ではありません。年齢とともに心は変化するのが当然です。

いつしか女性の姿を見ることもなくなりました。

そんなことがあってから数ヶ月後、休みの日のご飯時に高校時代の友だちから自宅に電話がかかってきました。最寄り駅の居酒屋で「会社の飲み会をやってるから遊びに来てよ」という誘いでした。

お店に行きますと、部下を7~8人引き連れた友だちがいました。友だちの話によりますと、「部下の一人の実家がこの近くで、俺が友だちがラーメン屋さんやってる」という話からこの居酒屋に来ることになったそうでした。

そこで実家が近くだという部下を紹介されましたところ、なんと、毎朝通勤時にわがお店のガラスを鏡代わりに使用していたあの女性だったのです。こんな偶然があるでしょうか。

世の中って広いようで、狭いのですね。

また来週。







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