<Sさんの親子関係>




「ラーメンの味がまずかったから潰れた」と話したことで休憩室の雰囲気が一気に和んだのですが、僕の指導役だったSさんは心なしか「僕が目立った」ことを不快に感じたようです。それまで女性がたくさんいる職場で中心的な立場にいましたので全体を仕切る役目を担っていたSさんです。自分以外の人が目立つのが気に入らなかったのかもしれません。

そんなSさんですが、普段はそのような態度を見せることもなく冗談も言いながら普通に接してくれていました。そもそも男性が少ないのですから職場を楽しくするには仲良くするしかありません。ですから、世間話などもするようになるのですが、Sさんは少しずつ身の上話をするようになりました。

Sさんの前職は外資系生命保険会社の営業をやっていたそうです。60才の定年で退職して今の職場に来たと話していました。

「とりあえず年金がもらえる65才になるまでここで働くつもり」

と話していました。
基本的に清掃業界は年齢の高い人が多く60才過ぎの人も少なくありません。休憩室にいた15~16人のうち8割くらいは60才以上だったと思います。女性は年齢を公開するのをためらう人もいますが、外見から判断しますとそんな感じです。

ですので、休憩中は年金の話をすることも多くいろいろな情報が飛び交っていました。しかし、全体的に言えることですが、年金に関する情報は正しいことよりも噂の類であることのほうが多い気がします。みんなして「何才から受け取る?」などと話していました。

Sさんは生命保険会社に勤めていましたので、年金の知識も豊富そうなイメージでしたが、あまり詳しくない話ぶりでした。生命保険会社と聞きますと、やはり営業の厳しさを思い起こします。しかもSさんが勤めていたのは外資系ですので厳しさは半端じゃなかったはずです。そんな話を振りますと、「もうあの仕事には戻りたくない」と笑いながら話していました。

Sさんと話していて気になることがたまにありました。それはお子さんの話をするときです。Sさんには20代後半の2才違いの息子さんが2人いました。どちらも既に結婚をして所帯を持っていました。

ある日、休憩時間に「この前の日曜日、俺の誕生日で息子にノートパソコンをプレゼントしてもらったんだ」とうれしそうに話しました。僕が「気になること」とは、Sさんが息子さん2人について話すとき、長男さんと次男さんでは話す内容が全く違うことです。長男さんについては褒めるのですが、次男さんについては非難する言葉しか出てこないことです。次男を「あいつはダメだ!」とまで言い切ったこともあります。

そのような憶えがありましたので「息子さん2人にお祝いしてもらったんですか?」と尋ねますと、「長男夫婦だけだよ。次男とは合わないんだよな」と答えました。僕にも子供がいますので「次男とは合わない」は聞き捨てならない言葉です。そのあとも「長男は本当に優しくていい子供なんだよね」と続けました。

僕にはSさん親子にどのような過去があるのか知る由もありませんが、自分の子どもに対して完全否定するような言葉を発するのは穏やかなことではありません。他人事ながら心配してしまいました。

昨今は親の虐待が問題になっていますが、Sさんの言葉を聞いたとき不安になりました。Sさんは次男さんが小さかった頃どのように接していたのでしょう。今はもう立派な大人ですし、所帯も持っていますが、そこに至るまでに父親に育てられる小さな子供という時代があったはずです。次男さんはどのような子供時代を過ごしたのでしょう。

Sさんを思い出すと、親子関係の難しさを思い起こします。

また来週。







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