<男性3人のうちの一人の先輩>




タイトルどおり、十数人いる清掃員のほとんどは女性で男性は3名でした。あとからわかるのですが、この男性たちも僕より2週間くらいだけの先輩連でした。しかも3人とも日にちがずれていますので中には僕と1週間ほどしか違わない人もいたことになります。

新しい仕事に従事するときに一番神経を使うのは直接接する先輩です。この人の人間性で自分の仕事運命が決まると言っても過言ではありません。なにしろなにも「知らず」「わからず」の状態なのですが、この先輩の教え方一つですべてが決まることになります。

基本的に僕はせっかちなところがあり、それで失敗した経験がたくさんあります。そうした経験がありながらも同じ失敗を繰り返す自分が情けないのですが、このときはいつもより慎重に注意深く先輩に接するように心がけていました。

初日、責任者から教育係として紹介されたのがSさんです。身長は僕と同じくらいで眼鏡をかけた小太りの男性でした。この男性の匙加減一つで職場での僕の仕事運命が決まります。気持ちよく働けるか、それとも悲惨な仕事環境になるかです。Sさんに好印象を持ってもらうことが第一歩です。

職場で大切なのは人間関係ですが、仕事ですから最初に大切なことは「やる気を見せる」ことです。先輩に第一印象をよく持ってもらうにはこの姿勢を見せることが大切です。それと同じくらい重要なことがあります。これは僕だけに必要な注意点ですが、それは「余計なことは言わない」の一点です。ですから、僕は自分に言「余計なことは言わない」と言い聞かせていました。なにしろこれまで僕は一言多くて失敗した経験が幾度もあります。僕は「余計な一言」に神経を集中していました。

一通りの挨拶を終えたあと、Sさんは仕事のやり方を教えはじめました。僕は「やる気」を見せるために筆記用具を出し書き留めていたのですが、少ししてSさんが「書かなくてもいいよ。あとで紙を渡すから」と丁寧に話してくれました。

まずは、第一段階は通過です。

そのあとも「余計なこと」は言わず、ときどき質問をして午前の部が終わりました。お昼ご飯は全員が休憩所に戻って食事を取るのですが、新人がお昼ご飯時に困るのはお弁当を食べる場所です。僕が来るまでそれぞれ食べる場所が決まっていたはずですのでそのしきたりを崩すわけにはいきません。先輩方の気分を害することなく食事をする必要があります。ちなみに、休憩室はタイルシートの上に畳を敷いた作りになっていました。

Sさんは仕事は丁寧に教えてくれましたし、接し方も優しかったのですが、今ひとつ心の底から打ち解けられる雰囲気がありませんでした。僕の感性が当たったかのように、休憩室に戻ったとき僕が食事する場所を教えることもなく、自分の食べる場所に行ってしまいました。僕は自分で座る場所を決めることになりましたが、入り口近くの端っこに座ることにしました。

僕を置き去りにしたSさんがどこに座ったかと言いますと、女性陣が座っている中を通りすぎて部屋の一番奥に腰をおろしました。そこは5~6人の女性が陣取っていたのですが、その一群の一人ということになります。どこでもそうですが、一番偉い人が座る場所は「部屋の一番奥」と相場が決まっています。Sさんは一番偉い人が座る場所に座っていました。

冒頭で男性先輩は3人と書きましたが、一人はYさんという40代半ばの中肉中背の男性であと一人はMさんという60歳過ぎの男性でした。食事中Yさんは僕の向かいに座り、Mさんは斜め向かいに座りました。僕は愛妻弁当でしたが、MさんもYさんもコンビニのお弁当を買ってきたようでした。どちらも食事中はほとんどしゃべらず沈黙した中でお弁当を食べていました。

食事中に目に留まったのがMさんが正座をしていたことです。Yさんは胡坐をかいて食べていましたのでMさんの正座が余計に目立っていました。食事が終わるとMさんは休憩室を出て行き、Yさんはラジオをイヤホンで聞きはじめました。僕は持ってきた文庫本を読むことにしました。

また、来週。







シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする