<続・ユニクロの人>




ユニクロ氏の年齢は20代半ばでしょうか。取り立てておしゃれをしている印象はありませんが、身綺麗にしているのはわかりました。

「お近くの職場なんですか?」
ユニクロ氏は少し間をおいて照れ臭そうに答えました。
「ユニクロで働いてるんです」
僕はリヤカーで回っていますので近隣の建物はだいたいわかっています。
「ああ、あそこにありますよね」
「ええ、正社員じゃなくて契約なんですけど…」

ユニクロ氏によりますと、最初はフリーターとして働いていて契約社員に昇格したそうです。次は正社員を目指しているそうですが、そのためにはさらに働きぶりを認められる必要があるそうです。プライベートなことを根掘り葉掘り聞くのも図々しい感じがしましたのであまり深入りはしませんでしたが、ユニクロに入社するまでもフリーターとしていろいろなところで働いていたそうです。ある意味、今の時代で最も平均的な若者像と言えなくもありません。

話している雰囲気も悪い印象はなく真面目という感じがして、このような青年が正社員として働いていないことが不思議な感じがしていました。

「どうして公園でお昼ご飯を食べているんですか? しかも一人で」

少し慣れてきたころに尋ねてみました。

「やっぱり、休憩時間くらいは落ち着いていたいですから」

仕事中は緊張しているので、その緊張感を和らげるために公園で一人でのんびりしたいそうです。言われてみますと、ユニクロの販売んさんはのんびりと働いているというよりは、全員が声出しをしながらキビキビと動いている印象があります。あの動きは緊張感がなせる業のようです。

「ちょっと、後悔しているんですよね」

契約社員として入社した時点では、一応将来的には店長を目指す気持ちもあったそうです。ですが、実際に働いてみますと想像と違っていたようです。しかし、こうした経験は誰しもが経験することで一度は通過する場面です。

「あのぉ、どんなお仕事なんですか?」

僕のうしろに置いてあるリヤカーを眺めながら聞きづらそうに尋ねてきました。20代半ばですと、相手の呼び方はなかなか難しいものがあります。販売の仕事をしていますと、仕事中は相手をすべて「お客様」という呼称で呼びます。しかし、プライベートでは適切な呼称が見つからないのが普通です。

学生のときは、違和感なく躊躇することもなく「おじさん」と気安く呼びかけることもできます。しかし、ある程度の年齢になり社会経験もありますと、気軽に「おじさん」などと呼べなくなります。ですから、主語のない言葉になります。

僕が自分の仕事を手短に説明しますと、「へぇー」と感心したような不思議そうな声を発しました。それから時計を見ると「じゃ、仕事に戻ります」と一礼をして去っていきました。

その地域は1週間に1度回るスケジュールだったのですが、翌週もユニクロ氏はやってきました。しかも手を振りながら…。

それ以来ユニクロ氏とは毎週公園で会うようになったのですが、仕事で緊張している中で唯一気を抜ける時間だったのかもしれません。その証拠にユニクロ氏は仕事中にあったことや感じたことを、ときに楽しそうにときに落胆しながら話していました。

人間は、話をすることがストレス発散につながることがあります。僕がユニクロ氏に少しでも幸せな時間を与えられていたならうれしい限りです。しかし、それからしばらくして僕はリヤカーの仕事を辞めてしまいましたのでユニクロ氏に会うこともなくなってしまいました。

結局、僕がユニクロ氏と楽しい時間を共にしたのは2ヶ月くらいでしょうか。僕にしてみましても快進撃を続けているユニクロの内部実状を聞けたことは役に立っています。

あれから6~7年経ちますがユニクロ氏はどうしているでしょう。

また、来週。







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