<職人さん2>




先週はガテン系の職人さんのお話をしましたが、今週はおしゃれな職人さんのお話です。お店をやっていますと、常連のお客様ができます。テキストにも書いていますが、どんなに「まずい」飲食店でも、どんなに「センスがない」お店でも常連客はできます。

僕が最初のお店を構えた場所は人通りが多い立地条件のよい場所でしたが、移転を余儀なくされたときに考えたのは「立地的に最悪の場所」でお店を営業することです。つまり人通りが全くないところでどれだけ続けられるかを知りたくなりました。

しかし、正直に告白しますと感じのよい接客をしていたならそこそこの売上ができて生活するのに困らないだけの収入は得られるのではないか、と心の隅で少しだけ考えていました。結論を言いますと、その夢は跡形もなく崩れたのですが、夢のようなお店運営ができるのは地主の家系に生まれた裕福な親を持った家賃のかからない環境の人に限られます。

それはともかく、僕が新たに引っ越した先は店の前をほとんど人が通らない場所でした。そのような場所で人に知ってもらえる機会と言いますと、店の前を通るバスの乗客の目に留まることです。店内からバスを見ていますと、僕のお店の看板に気づいて珍しそうに眺めている乗客が幾人もいました。そういう人はなにかのついでにわざわざ歩いて買いに来てくださいます。

「バスから見えたので…」というお客さんがたまにいましたが、この事例はお店を運営する際に重要なことが、「人に知られること」つまり宣伝ということを教えてくれています。

このような環境のお店でしかもグルメふうでもない平凡なコロッケ店でも常連客はできました。その一人問題が、かつて美容室を営んでいたという70才過ぎの女性でした。お店の裏手に住んでいる方でしたが、自らが独立自営業者という立場でしたの僕のような個人商店を営んでいる人間を応援したくなるようでした。

その女性は定期的に買いに来てくれるのですが、ほかにお客様がいないときは世間話をするのが常でした。僕はこの女性を「先生」と呼んでいましたが、これはビジネスで生きている社会人のマナーです。別にゴマをするというのではなく尊敬の気持ちを表すのは社会人の常識です。

先生は一代で美容室を2店経営するまで成功したそうですが、当時はもう半分隠居の状態で自宅兼ねた美容室で電話で予約をしてきたお客様だけを相手に営業していました。簡単に言ってしまいますと、古くからのお客様だけを相手に商売をしていたことになります。たまに先生との連絡がとれずに僕のお店の前で先生が帰ってくるのを待っていたお客様もいました。そういうときは日ごろの感謝の意味を込めて僕が先生の代わりに世間話の相手をしていました。

美容室というのはとても儲かる商売のようです。僕は理容業のことはわかりませんが、少なくとも一人のお客様から1万円くらいもらうようですから5人の来客で5万円です。コロッケを販売している人間からしますと夢のような商売です。

数年後に元理容業を営んでいたという男性と話す機会がありましたが、その方が昔は床屋さんは儲かったと自慢げに話していました。先ほどの話ではありませんが、床屋さんでも普通のところでは4千円くらいの料金ですので8人来店しますと3万4千円です。25日営業するとして100万円です。しかも飲食店とは違いほぼ原材料がありません。シャンプー代などを差し引いても90万円くらいの利益ということになります。

理容業も職人さんです。手に職をつけて生業にしているのですが、かなり儲かることになります。しかし、時代は常に変化します。僕と知り合った男性が儲かるはずの理容業を辞めたのはお客様が減ってきたからです。最近は千円カットを見かけることが多くなりましたが、昔からの理容業では新しい理容業のやり方に太刀打ちできなかったようです。いつまでも同じやり方が通用しないのはどこの業界でも同じです。

もしかしたなら、将来的には職人さん受難の時代が到来するのかもしれません。

また来週。







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