<パンチパーマの人>




やはりタクシードライバー時代で一番印象に残っている人はこの人です。この人についてはかなり前にコラムでも書いていますが、もう10年以上前ですので今回書きたいと思います。

どんな職場でも労働環境が悪い職場は離職率が高くなる傾向があります。しかし、僕がいたタクシー会社では退職する人はあまりいなかったように思います。これも考えようと言いますか、「そもそも論」になってしまいますが、タクシー会社という職場自体がいろいろなところで働いてきた人がたどり着く職場ですので「これ以上行くところがない」という側面もあるかもしれません。

それを割り引いても僕の周りでは退職する人はあまりいませんでした。ですが、僕の場合の「僕の周り」とは野球部の人たちという特殊な要因がありますので実態は少し違うかもしれません。野球部の人たちのお話は次回以降にしますが、野球部の人たちも楽しい人がたくさんいました。

それはともかく今回はパンチパーマの人です。僕がタクシー業界に少し慣れてきていたとき、新入りとして入ってきた人でした。体格は僕より少し身長が高く中肉中背といった感じです。パンチパーマ以外は特にほかの人と変わったところもない、ごく普通の人に見えます。性格的にも穏やかで言葉遣いも丁寧で成績も真ん中あたりで会社から目をつけられることもない普通のドライバーさんでした。

中にはきちんと勤務をしない人もいるのです。タクシー業界に慣れている人は要領よく働くコツを知っていますので適当に休んだりもする人がいました。このような人の場合は「コツ」ではなく「ツボ」といった方が的確なように思いますが、それはともかくこのような人は会社から「目をつけられる」ことになります。以前書きましたように、私が入った会社は中規模の会社ですので採用に際してはさほど厳しい対応をしていません。ですから、ときには働き始めると「問題がある」と発覚するケースもあります。

実際、勤務時間中に自宅に帰り寝込んでしまい、タクシー車が駐車違反で捕まった人がいましたが、その方はすぐに解雇されました。このような人は珍しいのですが、実際にこのような人もいるわけです。

パンチパーマの方のお話に戻ります。
ある日、会社を出庫して5分ほど走ったところで手を挙げる人がいました。もちろんお客さんですから喜んで近づきますと、なんとこのパンチパーマの方でした。僕がドアを開けますと顔だけ中に入れて
「もちろんお金は払いますから、悪いんですけど会社に戻ってもらえませんか。今日明け番なんですけど会社に忘れ物しちゃった」
僕はお金さえもらえれば問題ありませんのでその方を乗せて会社まで行き、そこからまたその方の自宅まで乗せることになりました。その乗車している間にその方の身の上話を聞いたのです。

その方はもうすぐ退社して地元に帰るらしかったのですが、その理由は「ヤクザからお金をせびられることに耐え切れなくなったから」でした。この方はなんとタクシー乗務員として働きながら、それと並行して新宿で違法カジノを経営していたのでした。ここで大切なことは「違法」という点です。ヤクザの人たちは「法律的に問題があるところに入り込みトラブルに乗じて利益をむさぼる」のが基本です。

これは違う職場で出会った人が「デリバリーヘルス」通称「デリヘル」を経営している方だったのですが、その方に教えてもらった言葉です。デリヘリを開業するときにはヤクザに上納金を支払わうことが慣習となっているそうで、それをしなければデリヘルの開業はできないそうです。なにかトラブルが起きたときに助けてもらうためですが、違法で開業しているのですから公的な機関である警察などに助けてもらえるはずがありません。なんとなくわかるような気がします。

パンチパーマの人のつづきはまた来週。







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