<高学歴チリ紙交換員>




前にも書きましたように、チリ紙交換という仕事は人に自慢できる仕事ではありません。基本的に汚れ仕事というのは普通の人がやりたくない仕事ですので下に見られる傾向があります。ですから、チリ紙交換に従事している人はいわゆる「訳あり」の人がほとんどです。中には普通のサラリーマンが副収入を目的として土日だけ働くケースもありましたが、そのような人は稀です。

また「基本的に」と書いてしまいますが、汚れ仕事という「人が嫌がる仕事」というのは報酬が高い傾向があります。需要と供給の関係で自ずとそうなってしまいます。しかも現場で働いている人と仕事を発注する人の間には雇用関係がない場合は特に報酬が高くなる傾向があります。基本給などを保証する必要もありませんし、社会保険などで会社側が金銭を負担する必要がないからです。

一般に社員を一人雇用しますとお給料以外にお給料の約15%くらいの出費が伴うと言われています。健康保険や社会保険、雇用保険といった様々な義務があるからです。雇用関係ではなく下請けという形式にしますとそういった負担をする義務を負わなくてもよくなります。ですから少しくらい報酬を高くしても企業としては「割が合う」ことになります。裏を返せば、人を雇うということはそれだけ社会的責任が大きくなることになります。…雇用するということは大変です。

話が逸れてしまいましたが、チリ紙交換で働いている人は「訳あり」の人がほとんどです。僕もその仲間入りをしたわけですが、このような環境の中では僕は目立った存在になります。まだ20代半ばで一見真面目そうな僕でしたので、どうしてもそうした環境には不似合いな感じが出てしまいます。実は、この同じ感じをこのあとに就くことになるタクシー会社でも出すことになるのですが、僕は普通の会社員という境遇にどうしても馴染めない性格でした。

それはともかく、どんな集団でも「似たもの同士」は寄り集まるという習性があります。この習性は人間に限らず動物が持つ本能のようで、僕はいろいろな職場を経験していますが、どこに行ってもこの習性は存在していました。「人間に限らず」と書いたのは、たまに見るNHKの「ダーウィンが来た」という番組の中で同じような習性の動物の生態を見ることがあったからです。

それはともかく、いわゆる「類は友を呼ぶ」という習性によりチリ紙交換の職場でも僕に近寄ってきた人たちがいました。外見上の「似たもの」とは20代という若さのことですが、これはあくまできっかけに過ぎません。このあとの世間話でお互いの素性をそれとなく探るのですが、その素性に学生時代の境遇があります。この境遇で「似たもの」かどうかを判断するわけです。さらに具体的に言いますと、この人たちは大学を卒業しているかどうかを目安にしていました。

「訳あり」が集まってくる人がいる中で大卒という経歴はとても珍しいものでした。もちろん最初から学歴のことなど話すわけはありませんが、大卒の人というのはそれなりのプライドがありますので話の中でなにかのきっかけがありますと大卒という肩書きを話したくなるようです。僕に近づいたきた人たちも最初は世間話から始まりチリ紙交換をしている理由などを話してきました。

結論を言いますと、この大卒の人たちは今ふうに言いますと起業を目指している人たちでした。今から30年以上前のことですが、当時すでに起業という発想は若者の心をつかんでいたようです。実は、僕はまだこの頃は「なにかをしたい」とは思っていましたが、起業はおろか具体的な職種などは考えてもいませんでした。そんなときに、「リサイクル業」という業種で起業を目指していた二人は新鮮であり、驚きでもありました。

このあとしばらくの間僕はこの二人と行動を伴にすることになります。







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