<ドラマに出てきそうなサラリーマン>




僕が勤めていたスーパーは中小企業ではありませんでしたが、大企業というほどのレベルではありませんでした。単純に規模だけで判定しますと大企業の部類に入るほどの大きさではありました。しかし、上にはダイエーやヨーカドー、またはジャスコ(現在のイオンです)、ユニーなどたくさんの企業がいましたので大企業と言うには格が足りない感じがありました。

いわゆる二番手と言われるグループに属していたのですが、二番手グループには「転職者が多い」という特徴があります。そして、その多くが一番手グループの企業からの転職組が多いということも特徴です。ですから、二番手グループの企業には新卒から入社している「生え抜き組」と「転職組」の派閥があるのが普通です。これに吸収合併などがありますと、吸収された側の派閥もありますからなおさら複雑な状況になります。おそらくこうした状況はどこの業界にもあるはずです。

僕の3店目の移動先には百貨店から転職してきた人がいました。今はどうかわかりませんが、当時は流通業界の中でもスーパーはお給料が安いことで有名でした。その方が前に勤めていた企業は電鉄系の百貨店だったのですが、お給料に関して言いますと間違いなくスーパーより高かったはずです。ですから、生え抜き社員の間では百貨店から転職してくる人を「前の職場で問題を起こした人」と陰口をたたくのが常でした。

「問題を起こした」かどうかの真偽はわかりませんが、自分の意思で転職してきたのですから前の職場に満足していなかったことは間違いありません。そうでなければわざわざ安い給料の会社に転職するはずはないからです。

転職組にはほかのパターンもあります。自分の意思ではなく、仕方なく転職してきた人です。僕が3店目で出会った係長はそういう人でした。

僕はおしゃれに疎いほうでしたのであまり詳しくはないのですが、僕より一世代前の人たちの間では「アイビールック」という男性ファッションが一世を風靡していたそうです。その創業者は石津 謙介さんという方で、一時期は成功者としてマスコミからもてはやされていましたが、最後は倒産してしまいました。僕は独立関連の本を読んでいく中で石津氏の自伝を読んだことがありますが、真摯に自分の失敗を振り返っていて人間的に素敵な人という印象があります。

僕の4人目の係長はそのVANから転職してきた人でした。先輩の話では「ウチの会社はVANからの転職組が多いんだ」ということでした。僕の会社のように発展途上の組織にとってはVANのような有名企業で働いていた人は有望な人材と映るようです。特に、僕の会社は食品スーパーから始まっていますので衣料部門での人材が欲しかったようです。

VANからの転入組の人にしてみますと、勤めていた会社がなくなったのですから新しい就職先を決める必要があります。そうなりますと、余程の実力がなければ同じレベルの会社に転職することは難しいのが現実です。そうなりますと、ランクを一つ下げて転職先を見つける必要があります。その意味で言いますと、僕の会社は打ってつけの会社ということになります。ですから、「VANからの転職」という流れは転入する側と受け入れる側の両方にとってメリットがあることになります。

僕の新しい係長はIさんと言う方ですが、年齢は40才前後で身長は高く筋肉質ではありませんでしたが、お腹が少し出たガッチリとした体格の人でした。ただし、先週お話しましたように「カツラー」の噂がありました。そんな噂を聞きますと、やはり僕としても頭が気になりますのでそれとなく頭部に目が行くようになりますが、見た感じもやはり「カツラー」でした。

そんなI係長はVANでは仕入れ部門にいた方だったそうです。そして、入社のきっかけは僕のお店の地域を統括していた部長の紹介だったそうで部長が来店したときはいつも親しそうに話していました。いわゆる「部長の引き」で入社したという感じです。

I係長の日ごろの仕事ぶりはまさに「なにもしない」という表現がピッタリでした。これまで僕が出会った係長の中で最も「なにもしない」人でした。ただただ出勤してきて机に座っているか、売り場をウロウロしているだけでした。ただし、部長にゴマをすっている雰囲気は部長との接し方を見ていますと実感することができました。

「なにもしない」I係長ですのでもちろん評判はよいものではありませんでした。特に紳士服売り場の人からは「勝手に商品を仕入れてくる」という非難の声を聞きました。VAN時代に仕入れ部門にいた栄光が忘れられず、「本部を通さずに勝手に仕入れて」いたそうです。

僕はI係長のときに退社するのですが、その際にI係長のサラリーマンらしいサラリーマンぶりを知ることになります。

僕の最初の独立は着物の販売業でした。知り合いに安く仕入れるルートがありましたのでそれを活用することにしたのですが、それを知っているI係長は独立したあとに僕に電話をかけてきて「部長が買ってくれるって言ってるから今度来てよ」と誘うのです。

その話しぶりに胡散臭さを感じていましたのでノラリクラリと返答していました。すると、4回目くらいに「そんな対応じゃ、成功しねえよ。もういいよ!」と凄まじい怒り声で電話を切ったのでした。その対応に、胡散臭さが間違いでないことがわかりました。

I係長の「胡散臭さ」とは、僕を利用して自分の評判・評価を上げることなのですが、この微妙なニュアンスがわかるでしょうか。このあとに僕はラーメン店を開業するわけですが、同じような場面に遭遇することが多々ありました。

あなたの周りにもいませんか? 「この店、俺の知り合いが経営してるんだ」と連れて行く人。こういう人は要注意です。

気をつけよう。甘い言葉に潜む罠。







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