<真実のタイミング>




ラーメン店時代、父の知り合いの方がたまに食べに来ていました。その方はTさんと言い、大手電機企業から試作品を請け負う仕事をしていたようです。仕事場にも行ったことがありますが、マンションの一室は専門職の人が使いそうな道具や細かな部品がたくさんそろっていました。

その方は夫婦で有限会社を営んでいたのですが、取引先に行く途中に僕のお店があったらしく、ついでに寄ってくれていました。

当時、僕はお店の構造的な作りに使いづらさを感じていました。それは換気扇の力が強すぎてドアが開きにくくなっていることです。実は、開店当初はそのような問題は起きていませんでした。換気扇の力がそれほど強くなかったからです。ですが、換気扇の力が弱いがために「店内の冷房が負けてしまい、冷房が効かない」という問題に直面しました。

そこで冷房を1つ増やすと同時に換気扇の力も強くしたのですが、その弊害が「ドアが開きにくくなる」という症状でした。おそらく空調工事の人もそこまでは考えていなかったはずです。ですが、原理的にはすぐにわかりそうなことでした。

換気扇で室内の空気を外に排出するのですから、その分室内に空気を入れる必要があります。その力が外側からドアに作用しますのでドアが開きにくくなっていたのです。この状況を改善するには、換気扇の力を調節する必要があります。

当時はまだITどころかネットの環境もありませんでしたので、どのようなものを探してよいのか見当もつきませんでした。そこで、電気製品の試作品を作っているTさんの相談したわけです。するとTさんは「あ、俺が作ってやるよ」と簡単に言うのです。

それから1週間後、Tさんが縦3センチ横4センチ高さ2センチくらいの器具を持ってきてくれました。中央にはダイヤルがあり、それを回して回転力を調節するようでした。早速、その器具をコンセントとプラグの間に入れ、ダイヤルを回しますと換気扇の回る力が変化します。

まさに僕が最も求めていた器具でした。僕はTさんに

「いくら払えばいいですか?」と尋ねますと

「そうだなぁ、1万円でいいよ」と答えました。

似たような製品がありますと、比べて「高い、安い」と判断することができますが、そのときは似たような製品を知りませんでしたので、その金額で当然だと思っていました。

それまで常に気になっていた「ドアが開きにくい」という問題点がなくなったことは僕の気分をスッキリさせました。たったそれだけのことですが、人間は感情で動く動物です。僕はとても満足していました。

それから1年後くらい経ったころでしょうか。たまたまホームセンターに行く機会があり、店内で探し物をしていますと、偶然「電力を調節する器具」なるものが目に入ってきました。陳列棚から取り出し、裏に書いてる説明文を読みますと、僕がTさんにお願いしたものと全く同じ機能を持った器具でした。

「なぁ~んだ。既製品があったんだ」と思い、棚に戻しながら価格を見ますと、なんと「2,500円」と書いてあるではありませんか!

僕は1万円で買ったのです。これはショックでした。もちろん電気の専門家であるTさんが知らないはずはありません。

せめてもの救いは、Tさんがその後食べに来ることがなかったことです。

また、次回。







シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする