<レンタルビデオ店の人>




<レンタルビデオ店の人>
コロッケ屋を廃業してもう8年くらいになりますが、ちょうどその頃はレンタルビデオから動画配信へと移行する過渡期でした。その頃にたまに買いに来てくれた人に30才前後の長髪の男性がいました。

ジーンズにトレーナー、ジージャンなどといったカジュアルな服装が多かったので、普通の会社員でないのは想像できました。会社員ではないようでしたが、買いに来るのは決まって午後7時~8時の間でした。

その男性があるとき、買いに来たあとに少しして戻って来て、またコロッケを買いに来たことがあります。そのときに、男性は初めて世間話をしました。

「近くでレンタルビデオ店をやってるんですけど、バイトの人に呼ばれてまた行くんですよ」

男性によりますと、レンタルビデオ店を2店営んでいるとのことでした。駅を挟んで2店舗という立地でした。一般的な傾向ですが、プライベートを話すようになりますと、話すプライベートの内容が少しずつ広がるのが普通です。これは意図するしないにかかわらず、人間の特性と言えるものです。親しくなるといろいろなことを話したくなるのが人情というものです。

しかし、その男性はそれ以上プライベートに関して話すことはありませんでした。と言いますか、そのときに「レンタルビデオ店を経営している」話をした以外は、買いにきてもあまり話をしないのです。年齢的なものか性格的なものかわかりませんが、それ以降、世間話をすることはありませんでした。それでも週に1~2回は必ず買いにきてくれていました。

ですが、買いに来ない日でもほぼ毎日店の前を通りますので、その男性の生活ぶりはなんとなく想像できます。僕の想像では、「2DKのマンションに一人暮らし」で、将来的には店舗数を増やしていって「一大レンタルビデオチェーン店を作るのが夢」といったところでしょうか。

30才前後でお店を2店も経営しているのですから、独立心は旺盛なはずです。得てして、そのような人は饒舌で大きな話をしたがるものですが、その男性はそのような素振りは全くみせませんでした。

結局、それ以上親しくなることもなく、僕が廃業してしまうのですが、その男性は僕の廃業をどのような気持ちで見ていたのか、と興味があります。飲食以外で独立して、ある程度成功した人は、必ずといっていいほど飲食店に進出することを考えるものです。この男性も、レンタルビデオ店である程度成功したあとに飲食店を出店することを考えていたかもしれません。

廃業に際して近隣のお店にあいさつに行ったのですが、そのときにお蕎麦屋さんで話し込んでいたときに、僕のうしろをその男性が通り過ぎるのがわかりました。軽く会釈をしたのですが、その男性も軽く返してくれました。

レンタルビデオ店は今の時代に合わなくなっていますが、あの男性は今どうしているのでしょうか。TSUTAYAの前を通る度に、その男性を思い出します。

また来週。







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