<出と入>




定期的に物件を回っていますと、たまに顔見知りになる人が出てきます。ある8階建てのビルの物件では70代前半と思しき女性と話すようになりました。その物件は7階と8階は一般の方が入居しているようですが、6階以下は事務所や営業所などビジネス系の人たちが入居しています。例えば、会員制の理容室とか介護の事務所などです。

僕に話しかけてきた女性の方は1階のテナントに来ているようでした。1階にはそのテナントしかないのですが、女性の話ではそこは健康器具が置いてあるらしく、そこに集まる年配の方はその健康器具を利用するために来ているとのことでした。

ここから先は僕の想像ですが、こうした年配の方を集めて高価なものを売りつける業者がいるのですが、その一つのように思いました。なんでもそうですが、「タダより高いものはない」と考えるのが賢明です。昔からある手口として、特に年配の方を狙った商法ですが、無料もしくは無料に近い価格で高齢者を集め、集団心理に陥らせて、価格に見合わない高額商品を売りつける詐欺商法があります。

この物件には2年以上行っていますが、集まっている顔ぶれや話している内容などから察しますと、詐欺商法と言えまで悪質ではないようです。それでも公共機関でもないところが無料でサービスを提供できるはずはありませんので、なにかしらのトリックがあるのは間違いないところです。

以前、その女性から「あなたも、無料だから来なさいよ」と誘われたことがあります。もちろん悪気はないはずですが、その女性が僕に話しかけてきました。

「おじさん、お給料いくらもらってるの?」

僕は「給料性ではなく、一件ごとの請負なんですよ」と答えたのですが、あまり理解できていないようでした。すると、女性は自分の身の上話をはじめました。

「わたし、若い頃〇〇〇〇っているところの販売所で働いていたんだけど、月に30万円もらってたの」

「〇〇〇〇」は宗教名です。宗教の話が出てきますと、こちらも少し身構えてしまいます。慎重に言葉を選びながら話を続けますと、僕を勧誘するつもりではないようでした。そこで安心して、「どうして、その宗教に入ったんですか?」と尋ねました。すると

「わたし、30才の時に離婚したんだけど、小さな子供いて生活が大変だったの。それがきっかけで入信したんだけど、仕事まで紹介してもらえて幸せだったわ」

僕は宗教に批判的な考えですが、この方のように実際に入信したことで救われている方もいるようです。今から30年以上前に30万円ももらっていたのですから、かなり高給な部類に入ります。この女性の気持ちがわかるような気がしました。

それはともかく、宗教に入るきっかけとしては、やはり「不幸」が多いのは事実です。人間というのは弱い生き物ですので、災難や失敗に遭遇してしまいますと、心が弱くなるものです。その隙間をついて入ってくるのが宗教の常とう手段です。

僕はビジネスで失敗ばかりしていますが、やはり宗教の人に狙われたこともあります。このコラムで書きましたが、コロッケ屋を廃業するときもある新興宗教の人にしつこいほど迫られました。そのときは妻がすごい剣幕で追い返したからよかったですが、不幸に見舞われた人の中には入信する人もいるのではないでしょうか。

僕に話しかけてきた女性は、身なりもきれいにしていますし、ほかの方との話しぶりをみていますと、落ち着いた老後生活を送っているのが想像できます。もしかすると、僕よりも幸せな老後生活かもしれません。宗教に批判的な僕からしますと、この女性はちょっと驚きの人なのでした。

でも、こうした女性の対極にはお金を蝕まれている人もいるはずです。そうでなければ宗教団体は成り立たないからです。どんな組織・団体でも、お金を配るにはどこかから調達するしか方法はありません。

来月から、消費税アップです。

また来週。







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