<配送の仕事の人>




40代半ばに早朝の配送の仕事をしたことがあります。以前書きました牛乳配達は早朝と言いましても深夜に近かったですが、こちらの仕事は午前4時頃でしたので早朝にふさわしい時間と言えます。

このときに扱っていたのはショートケーキです。大手コーヒーチェーンのケーキを店舗に配達する仕事です。フリーペーパーで見つけたのですが、午前4時頃にスタートして終了するのは午前11時頃です。正味6時間くらいで8千円でしたので割と効率的な仕事だったように記憶しています。

募集をしていたのは配送会社でしたので電話をしてみました。電話に出たのは中年くらいの声の男性でしたが、「うちとしても早く決めたいんで、すぐに面接に来てもらえますか?」と言われました。

面接場所は事務所だったのですが、住所を訪ねますと、マンションの一室でした。インタフォンを押しますと、声から想像していたとおりの40才くらいの男性が出てきました。中肉中背で目元はパッチリしていましたが、頭髪はいわゆるドラゴンボールのベジータ風で声の割に更けて見える外見でした。

普通の部屋を事務所に使っているようで狭い玄関から3畳くらいの台所を抜けると6畳程度の部屋がありそこに机が2つほど並んでいました。勧められた椅子に座りますと、電話で話したことと同じような内容で「明日から働ける?」と尋ねられました。

この会社は「株式会社〇〇運送」とフリーペーパーには書いてありましたが、社長が先ほどの男性で従業員は親せきと話していた50才くらいの女性の二人だけでした。今回応募してきたのは僕とあと一人で、この人は僕より先に採用が決まっておりすでに働いているようでした。

研修は親戚の女性と一緒に回るやり方でしたが、結局3日ほどで研修は終了し、あとは一人で回るように言われました。

こうした配送会社で働くは初めてだったのですが、この会社は大手配送会社の下請けという立場でした。あとからわかったのですが、下請けの配送会社として独立している人は意外に多いようでした。おそらく大手運送会社と人脈のある人が軽トラックを用意して始めているように思いました。この会社は4台の軽トラックを所持していたのですが、僕と僕より数日先輩の人と、あと一人社長曰く「知り合いに頼んだ」という若い人がいました。

研修は親戚の女性が行ったのですが、この女性がなんとも不愛想な人で冗談の一つも言わずただ一緒に乗っているだけでした。最後まで世間話をしない人というのも珍しい体験でした。

しかし、外回りの仕事ですので性格が合わなくても仕事に支障はありません。その点で言いますと、とても働きやすい環境でした。社長と話すのも朝に出かける前に数分と終了後の数分だけでしたので、ウマが合わない社長でしたが無事に乗り切ることができました。

とはいえ、数ヶ月で辞めたのは従業員に対する対応に不快な思いがあったからですが、できるだけ安く働かせようと少しずつ仕事内容を変えたきたことに納得ができなくなっていきました。

この会社ではあまりいい思い出はないのですが、僕より数日早く入社したTさんはとても優しい人だったのが唯一のいい思い出です。この方は沖縄の人だったのですが、ここで働く前はもう少し大きな配送会社で働いていたそうです。僕と同じような背格好の人でとても気さくな人でした。

この仕事は軽トラックで大手運送会社の倉庫に入ることから始めるですが、倉庫では停める場所を確保するのも慣れないうちは大変です。Tさんは僕が停めるところに誘導してくれました。慣れない僕が戸惑うのをわかっていたからです。

停めたあとは、お店ごとに分けてあるケーキをトラックに積み込むですが、僕が一人で回る初日はわざわざ最後まで手伝ってくれました。僕が出発する準備が完全に整うまで一緒にいてくれたのです。これほど優しくしてくれてもTさんにメリットはなにもありません。これを「優しい」と言わずなんと言いましょう。

朝は僕かTさんが社長よりも先に事務所に着いているのが常だったのですが、社長が来るまでTさんといろいろな話をしました。沖縄のことや上京して来てからどんな仕事をしたか、など僕にとって興味深い話ばかりでした。

この会社に勤めたことで、運送業界のことが少しわかったのですが、世の中には知らない世界がまだまだいっぱいあるなぁって思った思い出があります。

また、来週。







シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする