<新しい管理会社の人>




おさらいの意味でこれまでの経緯を整理しますと、僕はある清掃会社に所属していました。その清掃会社は建物管理会社から仕事を請け負っているのですが、その管理会社はある大学と契約をしています。今回その契約が切れることになり、新たな管理会社が引き継ぎにやってきたのでした。

今回の案件のように、管理会社は元受け企業から管理を受注するのが営業的には一番重要ですが、同じくらいに作業員を確保することも重要です。なぜなら、管理する物件を受注したとしても現場で働いてくれる人がいなければ仕事が成り立たないからです。ですから、管理会社が変わった段階で新しい管理会社は現場で働いている人たちも一緒に「引き継ぎたい」と考えているようでした。

その証拠に新たな管理会社の人たちが手分けして面接を行う段取りになっていました。現場で働いている人間にしてみますと、新たに仕事先を探す手間が省けますので悪くない話です。問題は、待遇です。賃金もそうですし、労働時間や福利厚生なども判断の基準になります。前の待遇よりも厚遇されるのが理想ですが、世の中は自分の思いどおりに行くのは稀です。

ある日、いつもどおりに作業をしていますと30才くらいのスーツ姿の黒縁眼鏡をかけた真面目そうな青年が声をかけてきました。僕があいさつを返しますと、名刺を差し出し自己紹介をしました。名刺にはAと書いてありました。

Aさんは新しい管理会社の担当者でした。あとからわったのですが、新しい管理会社の人たちは作業をしている人たちの仕事ぶりをそれとなく探っているようでした。先にも書きましたが、今後面接をする段取りになっていますが、それ以前にいろいろな情報を集めているようでした。

Aさんは僕を担当することになったようで、世間話をしながら仕事の状況などを質問してきました。全体的に言えることですが、新しい管理会社の担当者の方たちは言動、振る舞いが謙虚でした。ただ一人も傲岸不遜な対応をする人はおらず、全員が丁寧な接し方をしていました。

その中には上司らしき人もいましたが、上司の方も同様で、作業員に対してだけではなく部下に対しても同様の接し方をしていました。上司の方は40代半ばくらいでしょうか、中肉中背で銀縁の眼鏡をかけ七三に分けたヘアースタイルが性格を表しているようでした。最近マスコミをにぎわせているブラック企業とは縁遠い会社といった印象です。

Aさんは一日に一回は僕のところに話をしに来ますので、自然に親しくなりいろいろな話をするようになりました。Aさんと話していて一番驚いたのは、新たな会社では請負契約ではなく雇用契約になることでした。

以前も説明しましたが、会社が作業員と請負契約にするのは仕事をする場所がなくなったときに作業員が負担になるからです。それにもかかわらず今度の会社は雇用契約にするのです。作業員にとっては身分が安定するという意味で喜ばしいことですが、会社にとってのメリットを測りかねていました。

時間が経つにつれてわかってきたのは、作業員の労働時間が減ることでした。これまで作業員の労働時間は8時間でしたが、新たな会社では6時間もしくは4時間になるようでした。それを教えてくれたのはAさんです。ほかの担当者の方々は新たな雇用内容の詳細については公開していなかったのですが、Aさんは「まだ内緒だけど…」ということで教えてくれたのです。

作業をしていた僕が言うのもなんですが、これまでは仕事の内容と報酬の兼ね合いで考えますと「効率が悪い」と感じていました。その意味で言いますと、新たな会社の作業方針は妥当だと思います。ただし、僕個人的には割に合わないので「僕は契約を辞退します」と伝えていました。もしかしたなら、それも僕にいろいろな情報を前もって教えてくれた理由かもしれません。

Aさんとは親しくなりましたので作業員の各人の特徴と言いますか働きぶりについてもそれとなく質問されるようになりました。会社としてはまじめで働き者を雇いたいのは当然です。僕もAさんに好感でしたし、「辞める」という意識も働いていましたので各人の性格や働きぶりなどを伝えていました。いわゆる「告げ口」ということになりますが、「要領よくサボりながら働いている人」よりも「真面目にコツコツ働いている人」が厚遇されるようになってほしいという思いもありました。

もちろん、個人的見解と断ったうえで同僚の働き具合を報告していました。Aさんが信じてくれたかどうかはわかりませんが、いろいろな人について質問してきたことから考えますと、役立っていたのではないかと思っています。

僕は利用されただけなのかなぁ…。

また、来週。







シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする