<女性の責任者>




世の中には男と女がいて、どちらも相手を異性と思っています。最近では中間の人や身体と心は別という人もいますが、割合で言いますと男と女をそれぞれ異性と認識している人のほうが圧倒的に多いのが実状です。

お互いを異性と認識することのメリットは、なんと言ましても集団が和やかな雰囲気になることです。同性同士だけですとギスギスする雰囲気になる状況でも異性が一人いるだけでほのぼのとした雰囲気になるときがあります。理由はわかりませんが、動物の本能なのかもしれません。

清掃の職場は女性が14~15人で男性が4人でした。若い男女ですと恋愛感情も関係してくるかもしれませんが、平均年齢は60才を越えているはずですので惚れたハレタは関係ありません。それでも異性がいるほうが雰囲気が明るくなるものです。もし、女性だけの職場だったなら、もっと殺伐とした雰囲気になっていたように思います。

本日紹介する「あんな人」は女性の責任者です。僕の採用面接をした方ですが、話し方も肉体からにじみ出る雰囲気もお山の大将に相応しい感じがする女性でした。実は、この職場にはあと一人男性の責任者がいます。年の頃は60過ぎくらいの身長165センチくらいの痩せた男性でした。少し東北なまりのある話し方でしたが、名目上はその男性が一番のトップのようでした。

しかし、ほとんど実務はしていないようでその男性が作業をしている姿を一度も見たことがありません。僕が見る姿は、いつも両手をズボンのポケットに入れて歩いている姿です。僕の面接を女性が行ったように、男性は実務を全くやっていないようです。しかし、本社から偉い人が来たときは対応していましたから、やはり一番の責任者のようでした。

その男性に比べて女性の責任者はいつも働いていました。朝はいつも一番に来ており、僕が職場に到着するのは朝5時50分でしたが、そのときはすでに作業を行っていました。「上司は部下に背中を見せて組織を統率するもの」と思っているような人でした。

自らを厳しく律している人でしたので、部下に対しても厳しい姿勢で臨んでいました。遅刻には厳しく対応していましたし、汚れがきれいになっていないときも叱責していました。ただし、休憩時間はしっかりと取らせていましたし、管理職の部屋からわざわざお菓子類を持ってきてみんなに分けたりもしていました。

僕が見た感じでは、上司としてやるべきことをきちんとやることをモットーとしているようでした。ビジネス書に書いてあるような理想的な上司ということになります。その意味で言いますと、本社からの指示にも現場の長として判断しているように感じました。

一度、男性責任者と言い争いをしている光景を見たことがありますが、本社からの指示に対して現場の意見を本社に言い返すかどうかで揉めているようでした。言い争いの詳しい内容までわかっていたわけではなく、僕の想像も入っていますが、そんな想像をさせるほど上司として有能な印象を持っていました。

年末に忘年会が開かれることになったのですが、僕はお酒も飲めませんしそういう会合が苦手ですので欠席するつもりでいました。ですが、欠席者が僕だけということで無理やり出席させられることになりました。

そのときに驚くべきことがあったのですが、忘年会もたけなわになった頃に、女性の責任者が僕のうしろに回ってきてなんと僕に抱きついてきたのです。僕が驚いたのはもちろんですが、ほかの人たちも驚いた様子で見ていました。翌日、みんなからからかわれたのは言う間でもありません。

この女性責任者は僕によくしてくれていたようで仕事の最終月に僕だけ優遇されていたことを知りました。詳しい経緯は覚えていませんが、最後に給料明細書を会社に提出することになり、その明細書を僕の指導係であったSさんが集めていました。Sさんは「自分が仕切り役」という自負がありましたので、女性責任者に自ら申し出たようでした。

Sさんに給料明細書を渡しますと、僕の中身を見て「えっ、こんなに通勤手当もらってるの?」と訝し気に聞いてきました。僕からしますと、それが当然と思っていましたので「ええ」と答えますと、「俺なんか、バイク通勤だけどガソリン代だけだよ」と言うのです。

僕は自転車通勤をしていましたが、女性責任者は僕の通勤を電車通勤として本社に届けていたようでした。ですから、僕はSさんの8倍くらいの通勤手当もらっていたのです。Sさんはそれ以上言いませんでしたが、かなりショックを受けたようでした。

最後の仕事の日、本社からお偉いさんが来て集会を終えたあと、自転車置き場に向かう途中で女性責任者と会ったのですが、最後に笑顔で「ありがとね」と話しかけてきたのが記憶に残っています。

僕を優遇してくれていた女性のお話でした。

また来週。







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