<YさんとMさん>




男性陣は僕以外にはSさんとYさんとMさんがいるのですが、前に書きましたように、全員が2週間以内に入ってきた人たちでした。あとから聞いて僕も驚いたのですが、実のところ僕の指導係になったSさんは僕が担当する個所の清掃をやったことはなかったそうです。ですから、僕に「教える」とは言いながら初めて行う清掃箇所だったのです。僕が来る前日にリーダーから「指導係をお願い」と指示をされたそうで、「本当は困っていた」と話していました。

そうした状況でしたので、Sさんが僕に渡してくれた作業用のマニュアル書はSさんが作成したものではなく、前任者が置いていったものをリーダー経由で持っていたのでした。男性陣がなんとなくよそよそしかったのも、実際は全員が新人だったからでした。

前に書きましたが、YさんやMさんがお弁当タイムにほとんど無口で食べ終わったあとはさっさといなくなっていたのはやることがなかったからでした。僕が働き始めて1週間くらい過ぎた頃、お弁当を食べはじめると畳の隅っこに座っていたYさんに女性陣の一人が「そんなとこで食べないで、もっとこっちで食べなさいよ」と声をかけてきました。

Yさんは誘われるままに食べる場所を中に移したのですが、少しずつYさんがほかの女性たちと打ち解けてきたのがわかりました。Yさんに比べてMさんは年齢が高いことが関係しているのかもしれませんが、時間が経っても馴れ馴れしくなるような態度になることはありませんでした。それでも時間の経過とともに女性陣と少しずつ会話をするようにはなっていました。

一括りに捉えるのは正しくないかもしれませんが、全体的に見ますと「女性は社交的」という側面があります。休憩室の女性も変に気取ることもなく分け隔てない他人と接するところがありました。ですから、Yさんを気安く部屋の中に招き入れることもできましたし、Mさんに話しかけることもしていました。

そもそも清掃業界で働く人たちは苦労人が多いのが特徴です。プライドの高い人は「清掃業界で働こう」となど考えません。ですから、庶民的と言いますかほかの人と壁を作らない人が集まる業界です。しかしだからと言って、みんなが和気あいあいと楽しく働いていたわけでもありません。ここが人間関係の難しいところですが、人間が複数集まりますと必ず派閥ができます。

苦労人が集まるところですので、表立っていがみ合うようなことは絶対にありません。ですが、それとなく派閥はできますので派閥同士で気兼ねをすることはあります。「対立」ではなく「気兼ね」である点がミソですが、相手を気遣うことが狭い空間で一緒に過ごすコツです。

Yさんは40代半ばですので本来ならこういう業界に来るのはちょっと早い年齢です。しかし、人間には人に言えない悩みや出来事があるのが普通です。ですから、誰も深く質問をすることはありません。Yさんは通勤時間が1時間くらいかかるそうですが、わざわざ遠い場所を選んでいることになります。

これも清掃業界に多いのですが、「家の近くの人に見られたくない」という心理が働くのが普通です。Yさんがわざわざ1時間もかかる職場を選んだのはそうしたことも関係しているのかもしれません。Mさんはバイクで通勤していましたが、バイクで30分くらいの距離のようでした。ちなみに、僕は自転車で20分くらいの通勤時間でした。

実は通勤のためにわざわざ電動自転車を購入しました。元々は自転車通勤するつもりで職場を探し、希望どおりの職場だったのですが、勾配がすごい坂道があったのです。当初の心づもりでは「坂道くらい楽勝」と思っていたのですが、通ううちに辛くなってきました。

やはり、毎日の立ちこぎは苦しいものがあります。次第に、坂道の真ん中を過ぎたころに自転車を降りるようになってしまいました。苦しくて苦しくて漕いでいられないのです。いろいろ悩んだすえに、生まれて初めて電動自転車に乗ることにしました。そして、電動自転車の素晴らしさに驚嘆することになります。

また来週。







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