<優しい人5>




優しい人もいよいよ佳境に入ってまいりました。本日紹介します優しい人は団地に住んでいる方です。

僕は週に一度郵便局から取引先に仕入れ金を送金する必要がありました。ですので、回る途中に郵便局を入れるルートを組んでいました。仕事の途中でこの作業をしますと時間の無駄を省くことができます。わざわざ郵便局に出かけるのは時間がもったいないと思うからです。また、ルートの中に郵便局は入れるのは売上げ的にも意味があることでした。郵便局は意外に人が集まるところだからですので、郵便局に用事がある人を僕のお客様にする作戦です。

僕が利用することにした郵便局は大規模な団地の中にありました。20棟以上が連立する団地でしたのでかなり大規模な部類です。ですので居住者も多くいることになります。郵便局があったのもその人数の多さに理由があったはずです。郵便局の近くには広い公園もありましたので、僕はそこでお昼ご飯を食べたりもしていました。

ある日、いつものように郵便局で送金をしたあと、少し離れたところで声出しをしながら販売をしていました。すると、60代半ばと思しき女性が階段を下りて近づいてくるのが見えました。女性は軽く会釈をしながら僕の前に立つと、並べてある果物をしばらく見ていました。そして、「じゃぁ、これとこれと…」と指を指しましたので僕は言われたものを袋に入れていきました。正確な金額が忘れてしまいましたが、千円に少し足りないくらいでした。女性は千円札を渡しながら「あ、お釣りはいいわよ」と言って立ち去っていきました。

先週は「カラーン コローン」の女性のお話を書きましたが、優しい人に共通しているのはお釣りをくれることです。僕が「お釣りをくれる人」を「優しい人」と思うからかもしれませんが、これは「たまごが先かにわとりが先か」論争になりますので結論は考えないことにします。

とにかくその女性も「お釣りはいいわよ」と言って立ち去って行きました。翌週、同じところで販売していますと、前回と同じ女性がやってきました。そして、先週よりも多く買ってくれました。そのときもお釣りをくれましたが、そのほかに「また、来週ね」という言葉をかけて立ち去りました。

格差社会と言いますが、僕は社会の末端で働いていて興味深く思うことがあります。それはお金持ちの人よりも庶民の人のほうが「お釣りをくれる」割合が高いことです。もう一つの移動販売は会社がルートを決めていますのでそれに従って回りますが、ときには高級住宅街を回ることもあります。もちろんそこにも人当たりがいい人はいますが「お釣りをくれる人」はほとんどいませんでした。

僕にお釣りをくれた人は団地に住んでいる方ですのでお金持ちの部類に入る人ではありません。やはり「優しい人は庶民の人」という僕の法則が当てはまっていることになります。

僕は郵便局にも用事がありますので翌週もそこに行きましたが、2週連続で買ってくれているうえにお釣りまでくれるのですから、「さすがに3週はないだろうな」という思いもありました。あまりいいことが続きますとその反動があるようで不安な気持ちになるのは僕の気質です。ですので、あまり期待はせずに、そうは言いながら希望も持ちながら立っていました。

すると、いつもの女性が階段を下りてきました。そして、いつものように果物を選んで千円に足りないくらい買ってくれました。そして、いつものように「お釣りはいいわよ」と言ったところまでは、いつもと同じだったのですが、そのあとが違っていました。

なんと…、
「じゃ、これも受け取って」と財布に入っていた千円札と5百円玉をくれたのです。「お釣りはいいわよ」どころか、なにも買っていないのにお金だけくれたのです。こんなことがあるのでしょうか。

僕がものすごく驚いたのは言うまでもありません。

本当に、庶民の人のほうが優しい人は多いのです。

また来週。







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