<30才前の男性2>




一応男性に「売るコツ」などを伝授しますと、反論をすることなく素直に聞いてくれました。僕の年齢がかなり上であることも関係していると思いますが、性格的には真面目な人柄のようでした。しかも、いろいろと質問までしてくるのです。なんと言いますか、自己啓発ふうに言いますと向上心があるように思えました。

人間には生まれついた性格というものがありますので、いくら年長の人であろうと否定をして自分の意見を言おうとする人がいます。「素直ではない」というよりも「我が強い」というタイプです。それならば質問などしなければいいのに、わざわざ質問をして、それに反論をするのです。僕に言わせますと「ひねくれもの」です。世の中にはそのような人が実際にいるものです。

男性は「ひねくれもの」っぽいそぶりなど全く見せずに、僕にいろいろな質問や自分の身の上話などをしてきました。このような男性を見ていますと、逆に疑問が湧いてきます。どうしてこの会社に入ってきたのか、です。性格的にも全く問題なく健康的にも普通である男性がどうしてこの会社に入ってきたのかが不思議に思えました。

そこで疑問をぶつけてみますと、話しぶりが少し変わりました。なんと言いますか、警戒しているふうな感じがしたのです。なにを警戒しているかと言いますと、真実がほかの人に知られることです。

では、真実とは…。

男性が決して労働環境がまともとは言えないこの会社に入社したのは、なにかしらの行政の手当てをもらうためのようでした。つまり、行政機関から紹介されたので仕方なく入社したのです。ですから最初から長居をするつもりはないのでした。それなら合点がいきます。

行政機関に「自分は働く意欲はあるけど、たまたま働けない」ということをアピールする必要があるようでした。そのアピールの一環としてこの会社に入社してきたのです。男性は、話の最初のほうこそ「売上げの作り方」などを質問してきましたが、そのあとは雇用保険のこととか健康保険のことなど社会制度に近い質問をしてきたのです。男性は親しい人にアドバイスを受けながら行政機関とやり取りをしていたようですが、それを確認する意味で僕にいろいろと質問をしていたのです。

話し方になんとなく後ろめたい感じが出ていましたので、自分でも「あまり健全ではない」という意識はあったようです。結局、男性は1ヶ月ほどで姿を見せなくなりましたので、予定どおりだったのかもしれません。

それにしても、一見すると真面目そうで働き者のように見えても実際はわからない人はいるものです。僕が初めてこの男性を見たとき好印象を持ったのは、雨が降る中を地図を見ながら一生懸命リヤカーを引いている姿に純真さを見たからです。しかし、実際の目的は手当てをもらうためのカモフラージュだったのですから悲しいものがあります。

人って第一印象だけではわからないものですよねぇ。

また来週。







シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする