<30才前の男性>

先週も書きましたが、僕が従事する仕事は世間一般の人が働く業界とは違っています。そのようなちょっと風変わりな職業の特徴は経歴にこだわらない人です。世間一般の会社ですと学歴が最低でも高卒は必要ですし、犯罪歴などがあったら無理ですし、前職を辞めた理由に問題がある人は採用しないものです。僕が従事する会社は、応募者に対して前歴になどこだわらず、ただ真面目に働いてくれるかどうかだけをみます。

20代の頃に働いたチリ紙交換などはその際たる例で、刑務所から出所してきた人もいました。現実問題としてすべての会社が経歴を重視する採用基準ですと、一度レールから外れた人は一生仕事に就けないことになってしまいます。学歴など関係なく、それまでの人生など関係なく、ただこれから真面目に働こうという意思がある人が働けない社会は健全とは言えません。

リヤカーで野菜を販売する会社も、いろいろな経歴の人がいました。もちろんそのような人は自分の過去をつまびらかに話すことはしませんので詳しく聞くことはありません。ですが、詳細でなくてもなんとなく「これ以上は詳しく話せないんだろうなぁ」という感じはわかります。

あるとき30才前くらいの眼鏡をかけた男性が入社してきました。もちろん正社員ではなく歩合給の従業員です。この仕事を始めてすでに3ヶ月ほど経っていましたので仕事の要領も少しずつわかってきた頃です。

会社から少し離れたルートをリヤカーを引いていますと、同じリヤカーを引いた男性がいました。男性は地図を見ながらあたりをキョロキョロしながら歩いていました。同じリヤカーを引いていましたので新しく入社した人だろうと推測しました。

仕事が終わり、会社に戻ります案の定、昼間見た男性が帰ってきました。挨拶をしますと、笑顔で挨拶を返してくれたのですが、初日で疲れたようすが見て取れました。ある日、会社を出発する方角が同じでしたので、途中まで一緒に歩くことになりました。そこで初めて親しくお話をしたのですが、お昼ごろに待ち合わせをして一緒に昼食をとる約束をしました。

昼食の時間になり、待ち合わせの場所に行きますと男性はすでに来ていました。お昼ご飯を食べながらいろいろな話をしたのですが、最初にその男性が話したのは売上げの作り方を教えてほしいということでした。「ルートの固定客を回っても購入してもらえない」とこぼしていました。

仕事を始めて最初はルートを覚えることが第一です。固定客がいますのでそこを訪問するのが第一に重要です。それができるようになりますと、次は売上げを作ることです。男性は「それができない」と悩んでいたのでした。

僕は店舗を構えて販売する仕事をしていましたので、お客様さえ掴むことができたならあとはなんとかなると考えていました。店舗を構えていますと、店舗に要する経費を賄う分まで売上げを作る必要がありますが、移動販売ではその分の売上げは必要ありません。つまり、売上げはそこそこでいいことになります。

そして、実はだいたいにおいてお客様と親しくなるとお客様というのは購入してくれるものです。よほど変わり者か偏屈者でなければ、同情で購入してくれます。大切なのはそこまでの関係を築くことです。男性は、そこがわかっていませんでした。

来週につづく。

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