<先輩の人>




僕が野菜販売会社の仕事を始めたとき、その会社には従業員が2名いました。幹部が4人でしたので会社の構成的にはいびつなことになります。まだ立ち上げてそれほど経っていないということもありますが、会社の形として正常であるとはいいがたい構成になっていました。

先に記しておきますと、この会社は最後はおかしな形で廃業します。「おかしな」とは「お給料を支払ずに」という意味です。僕は会社が廃業する少し前に離れたのですが、結局この会社から8万円ほど報酬をもらえずに終わっています。

それはともかくこの会社は立ち上げたばかりでしたので回るべきルートもそれほどの数があるわけではありませんでした。ですので、1週間ほど経ったとき、新しいルートを開拓する業務をすることになりました。

僕はなにかしら特別なやり方があるのかと思い期待していましたが、実に旧態依然とした常識的な開拓法でした。その方法とはリヤカーを引きながら一軒一軒インタホンを押して新規のお客様を獲得する方法です。いわゆるローラー作戦です。これにはちょっと驚きましたが、販売の基本ではありますので真剣に取り組むことにしました。

しかし、このときに一緒に回った従業員の人とは相性が合わなかったのです。体格はやせぎすで眼鏡をかけ、身長は僕と同じくらいで、年齢は僕よりも7~8才年下のように見えました。そうであるだけに相手も「バカにされないように」と身構えていたのかもしれません。とにかく無口でなにも説明をしないどころか世間話さえしないのです。こういう人と一日中一緒にいたのですから本当に疲れました。僕がよほど癖のある人間と思われたのかわかりませんが、一日中一緒にいてコミュニケーションをとれる雰囲気が全くありませんでした。

その方とは2ヶ月ほどしてからようやっと打ち解けてきたのですが、やはり緊張していたようです。お話を聞きますと、その方も入社してまだ日が浅かったので余裕がなかったそうです。この方は年齢の割に小さなお子さんがいるようで「まだまだ稼がないと」と話していました。

この会社は最後に「お給料を支払ずに」廃業するのですが、僕がこの会社から離れる間際にたまたまこの方から電話をもらいました。この頃はある程度打ち解けていましたので相談をしたかったのだと思います。

「実は、先月お給料をもらっていないんですけど、円山さんはどうですか?」

という内容です。僕は社員ではなく歩合給制で、しかも日払い形式でしたので、一日の売上げの中からその日のうちに報酬を受け取っていました。ちなみに、僕が受け取っていない報酬とは研修期間中の固定給のことです。最初の契約のときには「研修期間中は一日8千円を支払う」というお話だったのですが、お給料日に社長から「少しずつ払いますので…」と言われてしまいました。このときすでに「おかしい」と感じてはいたのですが、せっかく新しく始めましたのでもう少し経験しようと思い、続けていました。

その方には「自分は歩合給なので毎日もらっている」ことと、この時点ですでに「辞めるつもりでいること」をお話しました。その方は僕から「もうすぐ辞める」という話を聞くと、それ以上話すことをやめましたが、まだ小さなお子さんがいる状況でお給料がもらえないのは厳しいものがあったはずです。

当時、その方の年齢からしますとまだまだいくらでも仕事が見つけられる状況です。そのような状況で、世の中にたくさんある仕事の中から立ち上がったばかりの小さな会社に就職するということはなにかしら特別な理由があったことは想像にがたくありません。朝早くから遅くまでキビキビと働いていた人ですが、そのような真面目な人が報われないのもなんか虚しい気分になりました。

僕はエリートとは正反対の業界で働くことを選ぶ傾向があるのですが、そこで働いている人を見ていますと世の中って不公平で不条理だようなぁって思うことが多いのです。

また、来週。







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