<隣の班の班長さん>

会社には野球部が2つあるのですが、今週は僕が所属していた野球部ではないほうの野球部について書きたいと思います。前に、僕が所属していた野球部はタクシー会社の大会で決勝戦まで勝ち進み後楽園球場で試合をしたことを書きました。

そのときに少し触れたのですが、僕たちが後楽園球場で試合ができることになったとき、もう一方の野球部の人たちも試合に出ることになりました。詳しい経緯はわからないのですが、キャプテン同士が仲がよいらしく2~3人をベンチに入れることになりました。新人である僕はもちろんその人たちを知りませんが、昔からいる人たちは親し気に話していました。

このように書きますと、もう片方の野球部のキャプテンが試合に出たように思いそうですが、キャプテンは試合には出ていません。もう片方の野球部でチームの要になっていそうな人が出ていました。

普通の発想ですと、一番偉いであろうキャプテンが出しゃばって出そうなものですが、キャプテンは出場の機会をほかの人に譲ったのです。このようなことからわかるように、もう片方の野球部のキャプテンは人格者なのです。

年齢は40才前後でなかなかのイケメンでガタイもガッシリしていました。名前をSさんといいますが、柔道でもやっていたかのような分厚い胸板と肩幅は社内でも目立っていました。Sさんのポジションはキャッチャーでしたが、どんなボールでもうしろにそらしそうもない雰囲気がありました。

性格も穏やかで笑顔を絶やさない人でしたので班長にもキャプテンにも相応しい人のように見えました。僕は班は違っていましたが、入社した当時から声をかけてくれてもいました。タクシー会社というのは強面の人もそれなりにいますので班長を務めるにはそれなりの体格も肝っ玉も必要です。前回書きました「あぶないHさん」などは自分のわがままを押し通そうとすることもありますのでそうした人を管理するには体格も必須な要件です。Sさんは班長になるのに適している外見でした。

僕はSさんを見ていて「どうしてこんなに能力がある人が普通の会社ではなくタクシー会社で働いているのか」が不思議でした。僕が最初に勤めていたスーパーなら十分に管理者としてやっていけそうな人のように思えたからです。しかし、人間というのは外からはわからない事情を抱えているものです。結局、最後までその理由はわかりませんでした。

会社には班が3つあったのですが、あと一人の班長さんも印象に残っている人です。この班長さんはお世辞にも人当たりがいいとはいえない雰囲気を醸し出している人でした。笑顔でいるときよりも仏頂面でいるときのほうが多い頭の頂点が薄くなっている50代半ばの人でした。

実はこの方とはほとんど話したことはないのですが、僕が退職することを会社に報告したあとに突然話しかけてきました。それまでこれと言って話したこともない班長さんが話しかけてきたので正直なところ驚きました。

僕が精算業務を終えてコーヒーを飲んでいたところ、近寄って来て「やめるんだってね」と話しかけてきました。そして、ちょとした世間話をしたあとに「絶対に戻ってきちゃだめだよ」と言うのです。それはまるで僕を諭すかのような口ぶりでした。「一度タクシーで働くと、ほかのところで働けなくなるんだ。俺は辞めた人間が戻ってくる姿をたくさん見ているからわかるんだけど、タクシーって外に出て自由でいられるだろ。その体験が忘れられないんだね。だから、ちょっと嫌なこと辛いことがあるとその会社を辞めてタクシーに戻ってくるんだ。君は戻ってきちゃだめだよ」

この言葉は、僕のタクシー時代で最も印象に残っているセリフです。

また、来週。

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