<後楽園球場>

野球部には面白い人がいました。冬の間だけタクシードライバーとして働く人です。年齢は50才前後でしたが、なかなか野球がうまい人でした。なぜ、冬の間だけタクシードライバーをやるかと言いますと、それ以外の季節は農業をやっているからです。東北のどこか県の農家の人でした。

名前をYさんといいますが、Yさんは体格はそれほど大きくありませんでしたが、抜群の野球センスを持っていました。Yさんは冬の時期にしか野球部にいないのですが、部内では結構実力者のようでなにかのときには堂々と自分の意見を言っていました。

「なにかのとき」というのは例えば、合宿に行くときの「場所決め」とかユニフォームの「デザイン決め」とか、試合のときの「お弁当決め」などいろいろあるのですが、その一つに「レギュラー決め」がありました。

野球部に入って驚いたのはちゃんと2泊3日の合宿があることでした。一応本格的に練習をして強いチーム作りを目指していたのです。

ある日のミーティングで公式試合のレギュラーを決める話し合いがありました。基本的に野球部は年功序列です。または在籍年数が長い人が優遇されるような発想になっていました。僕としては野球ができるだけでうれしかったので別段文句もありませんでしたが、そのミーティングのときにちょっとした問題が起きました。

キャプテンがレギュラーを発表したのですが、そこにはもちろん新入りで年齢も下っ端の僕は入っていませんでした。すると、発表が終わったあとにYさんが「おい、マルヤマが入ってないじゃないか」と文句を言ったのです。キャプテンはちょっと戸惑った顔をしましたが、僕も驚きました。

Yさん曰く「マルヤマは打つのも守るのもうまいのにレギュラーにした方がいい」と僕を推薦してくれたのです。すると、ほかにも「そうだよなあ」という声がしました。キャプテンも困ったようですが、僕も下手に意見を言うことはできません。なにしろ僕は下っ端ですから。

そのときにベテランでチーム内でマネージャー的な役割の人が「まぁ、そうだけどマルヤマ君はまだ若いし、試合には出すということでどうだ」と声を上げ、その場は収まりました。別に僕は試合に出たいわけではなかったのですが、僕の実力を認めてくれる人がいるのがとてもうれしかった覚えがあります。

僕たちのチームはクセがあるというか、うまい人が多かったので公式戦で勝つち続け決勝まで進むことになりました。ここでまたひと悶着が起きました。

前に書きましたが、会社には僕たちのチームのほかにあと一つ野球チームがあります。そのチームの選手が決勝戦に出場させてほしいと言ってきたのです。理由は、決勝戦が行われるのが後楽園球場だったからです。一般の人が後楽園球場で野球をできる機会はそうはありません。その機会があるのですからお願いしてきたのです。

僕のチームのキャプテンとあと一つのチームのキャプテンはやはり同じ社内の野球部ということで前から仲がよかったようです。そうした関係もあり、無下に断ることもできなかったようで、結局2名の出場を受け入れることになりました。当時、野球をやっている人で後楽園で野球をするチャンスに巡り合えるのは稀です。僕たちは目いっぱい楽しみました。というか興奮しました。僕も2回だけ守りにつき打席に立たせてもらいました。

結局、試合は負けたのですが、僕の大切な青春の1ページです。

また来週。

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