<学歴と実力>




起業を目指していた二人のうち主導権をとっていたのはIさんという方です。顔立ちは今ふうに言いますとなかなかのイケメンでいつもツナギをきていました。理由はわかりませんが、僕が見るときはいつもツナギでした。髪の毛はロン毛というほどでもありませんが、普通のサラリーマンよりは長めでした。髪の毛の量が多かったのでゴワッとした髪型になっていました。

もう一人のOさんはロン毛というに相応しい長い髪の毛を無造作に垂らしていました。ちょっと天然が入っていました。Oさんはいつもジャージを着ていました。おそらく動きやすいからでしょうが、いつもジャージを着ていました。

リサイクル業を起こすことを目指している二人でしたが、その時にやっていたことはフリーマーケットの開催です。前回書きましたコンビニの加盟店主の方とのつながりもフリーマーケット絡みだったように思います。出店するのではなく開催する側にいたことが当時としては進歩的だったのではないでしょうか。

チリ紙交換をする際に僕は会社から軽トラックを借りていたのですが、IさんとOさんは自分でトラックを持ち込んでいました。このことだけでも僕などとは違い「リサイクル業で食っていくんだ」という強い意志を感じることができます。トラックも軽ではなく750キロの大きさでしたので本気度がわかろうというものです。

おそらくIさんは僕をOさんのように仲間に引き入れようと考えていたようです。ですが、僕としてはリサイクル業に興味があったわけではありませんでしたし、なにより子供もいましたのでそれなりの生活費を稼ぐ必要がありました。IさんもOさんも独身でしたのでそうした境遇の違いは大きいものがあります。独身で自分の食いぶちだけを確保すればいい境遇の人とは仕事に対するというか収入に対する考え方が違います。

ここから先は僕の想像ですが、Iさんは地主のボンボンだったように思います。やはり学校を卒業したなら「会社勤めをする」という考え方が一般的な時代に、30才過ぎで会社勤めをしていない人は変わり者です。そして、そうした生き方を可能にできたのは、それを許せる家庭環境があったからだと思います。そうでなければ簡単に起業を目指せるはずがありません。しかも車を所有していたのですからそれなりに資金も持っていたことになります。こうしたことを考え合わせますとボンボンという答えに行きつきます。

Iさんの言葉で印象に残っている言葉があります。Iさんの車の助手席に乗っていたときのことです。Iさんが急に車を停めて道路端に落ちていた新聞の束を取りに行きました。そして、トラックの積み荷に投げ入れて戻ってきてこう言うのです。

「古新聞がお金に見えるようになったら本物だよね」

なるほど、と思ったものです。それから僕も道端に落ちている古新聞がお金に見えるようになりました。10キロで数十円でしたが「塵も積もれば山となる」です。

Iさんとコンビニの経営をされている方のところに行ったときのことですが、お店のスタッフ用の部屋に裏口から入って行きました。顔なじみでなければできないことですが、中に入りますと店主の方がいて、その方がテレビモニターを見ていました。Iさんはあいさつを終えると一緒にモニターを見ながら話を始めました。当時はまだモニターではなく画面と言っていたと思いますが。

それはともかく、まだインターネットどころかパソコンが普及していない時代です。そのときにすでに情報端末を操っていたのですから、今から思いますとかなり進んでいたことになります。もちろん当時の僕にはその凄さがわかっていませんでした。

また、違う日には年配の女性の方のお宅に上がりお茶を飲みながらお話をする機会がありました。そのときに印象に残っているのが「自分の出身大学の話をして、Oさんと僕についても大学を出ていること」をわざわざ話したことです。僕としてはサラリーマンを辞めた段階で学歴の効果というものがなくなると思っていたのですが、使い方によっては学歴というのは一生ついて回るものだと実感した次第です。

そういえば、ラーメン店時代に働いていたパートさんはご主人が大手の超有名で一流中の一流の商社に勤めている方でした。このような企業に勤める方はもちろん一流中の一流の大学出身者に決まっていますが、そのパートさんが「学歴は一生ついて回る」と話していました。

そのときは説得力があるように思えましたが、いろいろな経験をしてきた今考えてみますと学歴を「一生ついて回る」ようにしているのは自分自身です。つまり、自慢したい学歴を持っている人がなにかのたびに自分の学歴をそれとなく言いふらしていますので「学歴は一生ついて回る」のです。

もし、今の自分の実力に自信があるなら、例え人に自慢できる学歴であろうとも過去のことなどをわざわざ持ち出す必要はありません。転職に際しても学歴などよりはその時点での職歴のほうがずっと大きな要因になります。詰まるところ、学歴を一生ついて回るものにするかどうかは自分の実力次第と言えます。

結局、チリ紙交換業は収入的に伸び悩み、しかも天候などに左右されることもあり安定性がありませんでした。次に挑戦したのがタクシー運転手です。今の時代のタクシー業界とは大分違っていますが、次回はタクシー業界で出会った人について書きたいと思います。







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