<大阪から夜逃げをしてきた家族>




チリ紙交換という職業は普通の人が就くような仕事ではありません。ある意味、世の中からドロップアウトした人たちが集まるところです。ですから、いろいろな過去を持つ人がいるのですが、その中でも僕が最も印象に残っているのは大阪から夜逃げをしてきた家族です。

その家族について書く前にチリ紙交換会社の社長について書きたいと思います。社長は50才くらいの浅黒い顔をした引き締まった体格の人でした。身長は160cm半ばくらいで目元がくっきりとした男らしい顔つきの人でした。チリ紙交換という職業から想像するイメージはいかつい強面の豪快な人ですが、その社長は穏やかな話しぶりで大人しい感じの人でした。

僕が事務所を訪れますと、一通り仕事の説明をしてその日からすぐに仕事を始めることになりました。もちろん素人ですのでやり方が全くわかりません。ですから初日は教えてくれる人が同乗するのですが、僕に教えてくれた人は社長の息子さんでした。年齢は二十歳くらいで、息子さんも引き締まった身体に顔はあまり社長に似ていませんでしたが、性格は同じような感じの人でした。教え方も優しく丁寧でコツとか気をつけることを教えてくれました。

僕はその後この会社の親会社にあたる紙問屋の仕事も少し手伝うのですが、紙のリサイクルの流れを垣間見ることができました。紙のリサイクルは僕が働いていたような小さな営業所があり、そういうところで古新聞を集めます。そしてそういう会社が親会社である紙問屋に売りにいきます。ちょっと郊外に行きますと紙問屋の会社がありますが、集めた古新聞を機械でサイコロのような形に圧縮するのですが、こうした作業をするにはある程度広い敷地が必要です。ですから、郊外に多いようです。ここから先は僕の推測ですが、紙問屋で集めた古新聞を製紙会社に納入しているのではないでしょうか。

チリ紙交換の仕事は昼間は街中を巡回し古新聞を集めます。そして夕方頃に集まった古新聞を営業所に持って行き、そこで重さを計ってもらいそれに見合った金額を受け取ります。交換員の立場は従業員ではありませんので出勤も自由ですし出勤時間も決まりはありません。ですのでほかの交換員と会うのは稀です。そんな稀なことに遭遇した日、白髪の見た目はかなり高齢に見える男性の人と高校生くらいの男の子のペアと会いました。

不思議な取り合わせに見えました。収集した古新聞を納めに来ていたのですが、高校生くらいの男の子も一緒に働いているということは高校には通っていないことになります。白髪の男性はどう考えても60才は超えていそうです。ということは孫とおじいちゃんという関係になりますが、それでもやはり違和感はあります。平日の日中からチリ紙交換で働いているのですから普通の社会人ではなさそうです。いったいどのような人たちなのか。僕でなくても気になるでしょう。

ところで営業所の社長の生活具合も気になるところです。チリ紙交換とはいえ列記とした法人の社長です。世の中には自分の知らない世界というのがあるものです。チリ紙交換という職業である程度成功しているようで営業所から少し離れたところにそれなりの戸建てに住んでいました。

ある日、僕が営業所に帰ったのと入れ替わりにあの白髪の男性と高校生くらいの男の子が帰るところでした。僕の古新聞を納める作業も終えたときに社長の息子さんとたまたま白髪の男性と男の子の話になりました。息子さんの話によりますと、あの二人はなんと親子だったのです。

つづきは次回。







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